浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第82回】 オバマ米大統領広島訪問に学ぶ

 

2016年06月03日

 

5月27日、広島におけるオバマ米大統領のイベント・セルモニーは僅か50分だったが感動的だった。

そこではビジネス上も重要な「スピーチ」「プレゼン」また「異文化理解」の示唆を見ることができる。

17分のスピーチが終わった後、オバマ大統領が被爆者に近寄り、語りかけた情景は特に印象的だった。驚異的な視聴率でメディアはこの場面を報じた。

ことに、被爆者との「ハグ」が映像的にもアピールしたわけだが、日米の文化の差を考慮に入れる必要がある。

ある知日派アメリカ人がこう言った。日本人には特別に見えるだろうが、「ハグは(アメリカ文化の中では)表現の一つのtool手段なのだ」と。

勿論皮肉にとらえる必要はなく、「異文化」のひとつと覚えておく必要があろう。

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「遊んどったらダメですよ」 出典:Associated Press

オバマ大統領のスピーチを受けての安倍首相のスピーチの冒頭に出た「昨年4月の米議会での演説」についても、「10回のスタンディング・オベーション」には、同様の文化の差(=一種の社交・儀礼)という意味合いがあることも否定はできない。
参照:【第74回】 Proactive考 〜 安倍首相の米議会演説に見る「意図的誤訳」 - 浜地道雄の「異目異耳」

そもそも、今回激しく論争された「謝罪(報復)」に関して、「異文化」の背景がある。(アメリカ人は)謝らないのだ:【第20回】 「謝らない人」に学んだNobody told you? - 浜地道雄の「異目異耳」

そんな文化の中、現役米大統領としての広島訪問はそれだけに米国内での非難も少なくなく、非常な苦労・決断であったに違いなく、その分評価される。

さて、その感動的な被爆者との対話において、「核兵器廃絶」「世界平和」という意味合いにおいて、あまり報じられてないが、実質的にはオバマ大統領に話しかけた日本被団協理事長の坪井直理事長(91)の一言がハイライトだ:

「(プラハ演説2009年でノーベル平和賞を取ったのだから)遊んどったらダメですよ」。

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核のボタン・右の軍人が持つ

これは2009年にノーベル平和賞を受賞されながら、その後「核兵器廃絶」に向けて、何らの進展もなかったわけで、大統領任期最後の締めくくりにもっとも強烈な響きをもっている。

【第71回】 Lay Down Your Arms 〜 ノーベル平和賞・憲法九条 - 浜地道雄の「異目異耳」

日本被団協」と「九条の会」を推す筆者は早速この心揺さぶられる情景をオスロ筋(ノーベル平和賞関係者)に伝えた。

2016年度(10月発表)への授賞を期待しつつ。

 

関連サイト
日本被団協と九条の会

【第80回】 「意図的誤訳」の既成化〜広島宣言に思う - 浜地道雄の「異目異耳」

【第81回】 「バーカー」の愉しみ

 

2016年04月25日

 

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出典: NY Times via Trainjotting

さあ、緊張の一日、仕事が終わった。「お疲れ様」と、これは中々英語にしにくいがまあ一応Good work we did! 

そこで、ちょっと近所で一杯といきたいところだが、ここはNYCのマンハッタン。Japanese-Style Barというのはあっても居酒屋とは違う。事務所から一路、通勤電車の発着駅、グランド・セントラル・ステーションに向かう。クラシックな構内を見下ろすStanding Barもあるし、食事もできるOyster Barでは生牡蠣すら食べられる。

が、ここではともあれプラットフォームに直行、「バーカー」に乗車し一段落。Bar-Car、即ち、一車両がバーになってて、ビールなりウイスキーなりジンなりを注文し、ゆったりとする。

そして、その日の書類に目を通し、新聞を読み、或いは家族の待つ郊外の町までの美しい田園風景を楽しむなり、くつろぎの時だ。

ふと考えて見る。Barって何だろう?勿論、棒・横木(バー)だ。
チョコレート・バーや手すり。高跳びのバー。楽譜でも小節ごとにバーがある。
仕事上もset the bar 高い水準を設定し、バー・チャート(棒グラフ)で推移を見る。コンピュータでもスクロール・バー、バー・コード。いずれも「棒(状)」だ。

そのBarで「遮(さえ)ぎる」というところからa bar to success成功への障害。はたまたbar the entrance入口閉鎖、bar a gate閉門、或いはbar from smoking禁煙といった動詞にもなる。

bar/barring =(何々を)除いて、という前置詞的使い方もある。 bar noneとは「none(無)を除いて」から⇒「例外なしに」だから凝った言い回しだ。

だが、その「棒・板」がどうして酒を飲むところなのか?
I'll wait you at the bar.と言うし、レストランではWould you like to sit at the bar or a table? と聞かれることもある。

ものの本によると、イギリスでは酒場はタバーンやインの中に存在した。やがて、その食堂兼酒場が独立し、誰でもが自由に出入りの出来るパブ(Public House)になっていく。新大陸のアメリカにもその酒文化がもたらされた。

西部劇でお馴染のサローンでスイングドアーを開ければ、そこは荒くれ者からカウボーイ、商人、市井の人々が集い、娼婦たちさえ出迎えてくれる。酒場にして賭場。

だが、もともと酒場には、バー・カウンターはなかったようだ。
Bartender(Bar +Tender世話人)に聞いたところでも「西部開拓時代。当時の酒場では樽から酒を注いで売っていたが、勝手に自分で注ぎ飲もうとする不埒な輩がいて、これを防ぐために酒樽と客の間にバー(棒)を置いたのがきっかけ」とか。「乗ってきた馬を繋ぐために店の外にバー(棒)があった」という説もある。日本語でいう立ち飲みはさしづめStanding Barであろう。

さて、海外とのビジネスで不可欠なのが弁護士で、一般的にBarと称され、裁判所という意味も含まれている。語源については様々な説があるが、裁判で証人台の所に置かれたバー棒を持って証言することに由来すると言われてる。

また、裁判の法廷と傍聴席を分けるバーから来ているという説もあるが、behind the Barというと、鉄格子(バー)の中、監獄だ。

少し注意を要するのはアメリカの司法試験bar examinationは州ごとに独立している。いわゆる連邦Federal、アメリカ合衆国としての資格はない。そのため、州を選び、その州の受験することになる。ゆえに、一般的に外国人と訳されるforeignerはアメリカの法律用語ではその「州以外の弁護士」を指す。

そんな風に、色々考えながら都会の喧騒を離れて小一時間。軽井沢をさらに美しくしたような郊外の駅に着く。

4月、極寒から一転、素晴らしい春だ。Bar none例外なく。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2016年4月号)より転載・加筆。

 

■関連記事

【第94回】ラッピング広告東西比較 - 浜地道雄の「異目異耳」

 

 

【第80回】 「意図的誤訳」の既成化〜広島宣言に思う

 

2016年04月19日

 

 

4月11日、主要7カ国(G7)広島外相会合で採択された「広島宣言」において、「意訳」が見られた。

原文ではimmense devastation and human suffering(甚大な破壊と人間の苦しみ)とあるのを、日本語では「非人間的苦難」と発表している。

広島宣言の本文:The people of Hiroshima and Nagasaki experienced immense devastation and human suffering as a consequence of the atomic bombings and have rebuilt their cities so impressively.

外務省の訳:広島及び長崎の人々は、原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験し、そして自らの街をこれほどまでに目覚ましく復興させた。

つまり、宣言では「非人間的」と言ってないのだが、聞いた日本人は「そこまで言って、その非を認めたのか」と誤解をするのは必定だ。

今回のケリー米長官らG7外相が広島を訪問、認識を示したことは評価する。
ゆえに、これは今後の前進に向けての、ギリギリのところと評価できる。

が、他方、昨年4月の米議会における「意図的誤解・誤用」が深刻なこの例は看過してはならない。
Proactive=先回りをして ≠ 積極的 = Positive。
参照:【第74回】 Proactive考 〜 安倍首相の米議会演説に見る「意図的誤訳」 - 浜地道雄の「異目異耳」

安倍晋三首相は昨年8月15日の安倍談話他、いくつかの公けの場でもでもこれを意図的に誤用しており、日本人にはそう伝わっている。

意図的に認識の大きなズレが既成化を生んでいる。これは危険である。

【第79回】 映画「Steve Jobs」に想う

 

2016年03月07日

 

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映画「スティーブ・ジョブス」のスティールより

本稿を書いているのは、2016年2月29日だ。うるう年。

改めて、スティーブ・ジョブスによるアップル機の開発、披露。1984(ロス五輪)を中心に、歴史的に興味深いストーリーを思いだしている。

それはちょうど上映中の「Steve Jobs」を見てのことと。
参照:スティーブ・ジョブズ(映画)/
(音がでるのでご注意)
参照:IMDb: Steve Jobs (英語)

世に成功者としてヒーロー扱いされているジョブスが、人間(同僚、仲間、友人、夫、父)としてはいかに難しい性格であったか、など冷酷なまでにえがかれている。自己中心で、気難しく、悪名が高かった、とのこと。

高校時代に出あった共同創立者ティーブ・ウオズニックStephen Gary Wozniakや、ペプシから引き抜いた共同経営者ジョン・スカリーJohn Sculleyとの確執は、息苦しいほどである。

そのスカリーをペプシコーラ社長から引き抜いたときのことばは有名だ。
Do you want to sell sugared water for the rest of your life, or do you want to come with me and change the world?

それは我々日本人がシバシバ困難に遭遇する、アメリカ的ビジネス文化(=個人主義成果主義)でもあるし、それ以前にジョブスの生誕⇒養子という秘密にも起因するとも推測できる。
参照:「Jobsの本」と「Jobの本」

ジョブスに女の子が生まれ(非摘出子)、リサLisaと名付けた。

その頃ジョブスはApple製品に Lisaと名付けた。
このLISAをジョブスはLocal Integrated Software Architectureだというのだが、
最後にはやはり娘と抱擁する、やはり彼も人の子だとわかる、ホッとする場面である。

Lisaが腰につけていたウオークマンなど、筆者にとっては昔の(石油担当商社マンとして、中東を巡回していた頃の)「機械」をも懐かしく思いださせてくれる。

そして、忘れてはならないのは、その自己中心主義のジョブスを陰で支えてきたマーケティング・マネージャのJoanna Hoffman(タイタニックの主演女優ケイト・ウインスレット)。

そのPR (Public Relations)の役目が印象に残る。
参照:【第13回】 ローマのRelations - 浜地道雄の「異目異耳」

【第78回】 新年に思う接頭辞「A」


2016年01月13日

New Year! 新しい年の始まりだ。新約聖書によると「始めに言葉ありき In the beginning was the Word」(ヨハネ伝John 1:1)。ということで、本稿もことばの確認から始めよう。

そもそもと改めて考えると、1月は年の最初(First)の月なのか?
元々、ローマ暦では3月から始まる。そして一巡して最後の月、1月(January)に到達する。2月は年末の「付け足し」で、28日(閏年はleap)が与えられた由。

確かに、海外での駐在生活では、日本のように三ケ日が休みで、新春を寿ぎ、ゆったりということはなく、いささか拍子抜けする。それぞれの地の大使館に在留邦人が集まり、お神酒を頂きやっと新年を実感する。

さて、英語のアルファベットはABCで始まる。その祖先はラテン語。その派生のイタリア語は音楽でお馴染だ。ミュージカル「Sound Of Music」の「ドレミの歌」は楽しく、その階名Syllable Nameを♪Do-Re-Mi-So-La-Ti-Do♪と皆で歌い上げる。オクターブ(Oct=8、8本足の蛸Octopus)だ。が、その音名Pitch NameはC-D-E-F-G-A-H-Cとドイツ語読み。アルファベットと違い「A」は最初ではなく「C」から始まる、という小さな悩みが生じる。

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NEC Orchestrating: 同社URL より

日本電気(NEC)のブランドステートメントは「Orchestrating a brighter world」とある。100人もの多種多様な(絃、管、打楽器からなる)個性派集団からConductorは「共同成果」をまとめ上げるのだから、確かに企業運営、ビジネス遂行そのものである。そのOrchestraの最初の音合わせはオーボエの「A」(アー、ドイツ語)で、これからの至福の時の始まりを告げ、ワクワクさせられる。やはり、「A」が重要な始まりなのだ。

ということで、「A」について当たってみると中々深遠なPre-Fix接頭辞だ。PrefixはIT用語にも使われるが、電話の市外局番はわかり易い例。
接頭辞は専門学術書によれば語源が多々あり複雑だが、ここでは、いくつか馴染のビジネス用語を取り上げてみよう。A/Ad など「to/ toward~の方へ」を意味するラテン語
  Agree(喜び)= Agree同意、
  Ac+cept (つかむ) =Accept引き受ける、
  Ad+vert(向きを変える+ise (動詞化)= Advertise広告・宣伝、
  Af+flu (流れ) = Affluent裕福な、
  Ag+gregate (集まり)= Aggregate合計する、
  Ap+point (指を指す)= Appoint約束、
  As+sign (印)=Assign割り当て。
     etc.

Audi~は「聞く」「注意する」だ。相手の主張・言い分をキチンとまずきちんと聞く、良きAudienceでありたい。

2005年6月、S.ジョブズ氏のStanford大学での卒業式(commencement始まり≠graduation終了ではない)における祝辞はこう締めくくられている。『And now, as you graduate to begin Anew』。

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Today is the first day: 出典:Quote/Counterquote 2014

John Denver は歌った。♪Today is the first day of the rest of my life♪。齢がいくつになろうと今日は残りの人生の第一日目。♪I wake as a child to see the world begin♪。まさに新生児がこの日、「新しい世界」を見るように。

職場で大声で歌うAloudわけにはいかないが、口ずさんでみよう。
新年、身が引き締まる思いでAnew 新たにー。Afresh新鮮な気持ちでー。

 

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2016年1/2月号)より転載・加筆。

 

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【第38回】 二面性のJanuary - 浜地道雄の「異目異耳」

【第4回】Orient(日が昇る)に思う - 浜地道雄の「異目異耳」

 

関連参考サイト
Quote/Counterquote: Today is the first day of the rest of your life.