浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第20回】 「謝らない人」に学んだNobody told you?


2010年05月10日

 

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謝罪(出典:共同)


裁判員制度が導入され、一方、冤罪問題が出て、又、時効廃止が異例の速さで決定された。人を裁くというのは何と難しいことだろう。日本での裁判は「見せしめ」論に加えて、「自白しなかった」つまり「謝らなかった」ことがしばしば指摘される。
それは、日本の検察(裁判)制度の根に、3つのR、つまり、Repent(改悛)、Regret(後悔)、Rehabilitation(更正)というきわめて日本的な文化があるからだ。
(ジョンソン「アメリカ人のみた日本の検察制度」シュプリンガー出版)

確かに、人に迷惑をかけたりミスを犯した時、まず「ご免なさい」のひとことと我々は教えられてきたし、それがどれだけ当事者間の融和をはかり、解決に役立つことか。

ところが世界は違う。
中東の某都市で、信号待ちで車を一旦停止してたら、後ろからきた車が「コツン」と当たって来た。車外に出て文句を言うと、相手の言い分は「いや。お前がバックしてきた(からぶつかった)のだ」。
絶句! いやはや謝らない人たちだ。

ある中東での飛行機内。
頼んだコーヒーがポットから注がれる時、ポタポタとこぼれて筆者のズボンにかかった。美しきスチュアーデスの口から間髪を入れずに出た言葉はきつい。
Don't put a spoon in the cup!  確かに待ってるときスプーンをコップに入れてた。だから折角入れてくれたコーヒーがこぼれたのか。と思うまでもなく、こちらから I am sorry!と出てしまう。

約束の時間にアメリカ人が大分遅れてきた。
いささかイライラしてた我々に彼が言った言葉は Thank you for waiting!にこやかに、爽やかにーー。
英会話テキストでよく習う I am very sorry for having kept you waiting so long.とは言わない。
やっぱり謝らない人々だ! 

遅刻といえば、責められない勘違いもあった。
インドに出張した時、同行者が毎朝ホテルでの朝食に遅れてくる。
悪びれた様子もないので話しあったら、日本との時差time differenceが(3時間と)「30分」というのを見落としてたよし。
「時差(感覚)」は国際ビジネス上重要なので余談をひとつ。
この「30分」の時差はインド以外にも、ミャンマー、イラン、アフガニスタンなどであるが、昨年4月14日にスリランカもインドに合わせて「30分」制に移行にした。その背景には民族紛争があると聞く。ネパールなどでは「15分」ときめ細かく、Jet-lag時差ぼけの頭には要注意。

さて、「謝らない人」をめぐり、「災い転じて福とした」例がある。
先年、末娘の大学卒業式で久しぶりでNYに皆揃い、それから昔住んでたコネチカットの懐かしい街で投宿したのはもう夜だった。部屋のバスタブが水漏れして調子が悪い。フロントにとって返してそのことを告げたところ、夜勤のインド人の言葉がこうだ。

The bath tub in that room is out of order. Nobody told you? (この語尾が妙に上がる

「その部屋のフロは故障してる。誰も言わなかったかい?」
え! チェックインの時からお前さん一人だけ。他に誰が言うんだ?
と、売り言葉に買い言葉、思わず語気を荒げそうになる。
が、その「謝らない姿勢」の余りの見事さに、あきれるのも怒るのも超越して、家族みんなで吹きだした burst out laughing。
以来、我が家では、口喧嘩が始まりそうな時に誰かが言う。
Nobody told you? 
これがbinding spell(楽しいお呪い)となって、あの時の爆笑を思い出し喧嘩が未然に防げるのである。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆

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