浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

 【第231回】驚くべき「インド工科大学」フォーラム

 

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ダンデIIT学長、ズラッと並んだパネリスト  (許可を得て撮影、全て筆者)

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インドの衝撃

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 壇上に上り、パネリストと活発な直談話 (「Entrepreneurship」討議後)

 

2007/11/20

インド工科大学同窓会は、11月にフォーラム「JAPAN CONFERENCE 2007」を3日間にわたって東京で開催した。参加者から共通して伝わってきたのは郷土愛とでもいおうか、愛国の思い。これは日本では、企業人はおろか、政治リーダの声としても中々伝わってこない—— 

 「驚くべき」と大仰に枕詞(まくらことば)をつけたのは故がある。

 近刊『インドの衝撃』(NHKスペシャル取材班、文芸春秋)が、余りにも衝撃だったからである。【NHKTVで本年1月に3回シリーズとして放映され、大きな反響があり、取材した多くの事実や情報が捨てられたことから、TVとは別の角度からじっくりインドを味わってもらおうと企画されたのが本書である】(同書「はじめに」より)

 そして、その同書の冒頭「わき上がる頭脳パワー」(天川恵美子ディレクター)の主たる記述が、即ち本稿で取り上げた「インド工科大学=IIT、Indian Institutes of Technology」なのだ。その第一章「世界の注目を集めるインド人の頭脳」に続く、第二章「MITより難関? 超エリート大学IIT」、第三章「ネルーの夢、頭脳立国」、第四章「頭脳を武器に成長するインド企業」、第五章「トタン屋根の予備校」がすべてIIT関連の「現場報告」なのだ。

 詳細は同書に譲るが、論理的思考を徹底的に鍛え、急成長するインドIT企業を支える「頭脳集団」。1947年に独立を果たしたインドで、故ネルー首相の強い意向を受けて、最初から世界トップを目指して1951年に創立した。現在は7キャンパスに拡大、学生数は全体で26,000人にのぼる。毎年5千人の定員に対して受験者は30万人は、世界最難関の大学ということになる。

 結果、米国では「ベル研究所」所長、サン・マイクロ共同創業者、マッキンゼーCEOUSAirways社長。イギリスのボーダフォンCEOなど、錚々たる世界企業のリーダを輩出している。
 そのIIT ALUMNI(同窓会)の「JAPAN CONFERENCE 2007」が11月15・16・17日と3日間、慶応義塾大学三田キャンパスで開催された。

初日、会議は開会の辞に続き、ダンデIIT学長は創立者ネルー首相の意思を語る。そして安西慶応義塾大学塾長、平尾東京大学副学長の2人の素晴しい英語(いわゆる「ペラペラ」という意味ではない)による講演。そして、シリコンバレーにおける成功起業者6人によるパネルディスカッション「Nation Building Projects」(国家建設プロジェクト)。

 文字通り、「裸一貫」からの成功者の集まりゆえ、Investment, Education, History, Society, Quality, Age Matter(加齢)などなど話題は実に多彩で、中々まとまるところまでは行かないが、共通して言えるのは郷土愛とでもいおうか、愛国の思い。これは日本では、企業人はおろか、政治リーダの声としても中々伝わってこない。この辺りの「故郷を、国を自分達が変える」「米国(海外)で成功して、故郷に帰る」という思いは、前述書『インドの衝撃』のそこここにも報告されている。

 続いて、「Global Business Partnership」というテーマのもと、日・印の錚々たる政府要人、企業幹部の講演が続いた。

 

 2日目は、早朝9時から日印双方の「起業人」が壇上にズラッと並んで「Entrepreneurship」討議。これまた、延々と発言がなされ(といっても、主としてインド側から)、まとめるのは難しい。しかし、すべて実体験談ゆえ一つ一つは印象深く示唆に富む。

 一番印象に残ったのは、企業トップとしていつも迫られる「意思決定」について。Uncertainty(不確実性)にどう立ち向かうか? そこにあるFear(恐れ)をむしろMotivation(動機付け)として捉えていく勇気、という定義であった。

 Try not to make money. Money is the by-products.「金は目的ではなく結果である」というのは、まあきれいすぎるかもしれないが、同じエリート起業家である(あるいは「だった」)村上何某、ホリエモンなどにはぜひ聞いて欲しいところ。

 MotivationInside Desire(心のうちにある熱望)、そして、Contribution for National Building(国家建設への貢献)、と言った力強い表現も見られた。

 終了後、聴衆が壇上に上がって、パネリストとの熱心なやり取りという積極性は日本では中々みられない情景。

 午後からのセッション、「Cross Border Transactions, Knowledge Economy, Retail」に続く、「People−to−People Partnership」においては本フォーラムの「仕掛け人」セス前駐日インド大使と平林元駐印大使の対話。そして、「Financial Services」へと続く。登場したのは、在日本の米系企業トップ(Chatuvedi氏:Procter & GambleKaul氏:Citibank)で、いずれもIIT出身のインド人。

 しんがり新生銀行会長・社長、Thiery Porte氏の講演はインパクトがあった。破産した旧長期信用銀行の再生にあたり、システムの開発をインドに委託した。メインフレーム(大型コンピュータ)体質のところに、PCベースのフラットネットワークでの方式に対しての不安は大きかった。誰もが不可能と言った。しかし、結果は開発コストを大いに削減し、かつ、予定納期より早く完成した。「すべてインドIT技術力のおかげである」という力強い結びの言葉には、会場から一斉に拍手が沸き起こった。

 以上が「驚くべきインド」フォーラムの概要報告である(詳報は別途、「JAPAN CONFERENCE 2007」関連Webページに公開されると思う)。

 いたずらに、昨今の「インド報道」の片棒を担ぐのは賢明ではない。しかし、グローバライゼーション、なかんづく、地球のフラット化(トーマス・フリードマン)という現在の世界(ビジネス)情勢下、インドに対する大規模ITアウトソースにより競争力を高めている米欧企業。さて、日本の取るべき道は? 「産学協同」のありかたは?

 確かに、11億人口に占める貧困層という厳然たる大問題がインドには存在する。しかし、それとても経済力を含むリーダーシップの資質にかかっている。それは日本ではしばしば物議をかもす「エリート(教育)」の資質と同義である。

 英語教育関連を生業(なりわい)とする筆者は、その(インド・パワー)根にあるコモン・ランゲジ(共通言語)としての「英語力」「英語教育」についても大いに考えさせられた。つまり、その「必然性」「必要性」「不可避性」を再確認し、加えて「責任」を再認した次第である。

 

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