浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【219回】タタに見る異文化理解 ~ 時空を超えた魅力

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The Economist 2012年12月1日号



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松本清張「ペレスポリスから飛鳥へ」「火の路」

                                                                                                                                                                                          

The Economistは英国ベースの、世界でもっとも重要な政治経済紙(週刊)の一つと見なされている。その表紙をはじめWits(知力)に富む記事は魅力的であり示唆的だ。

(一例:Jobsの本)

【第41回】 「Jobsの本」と「Jobの本」 - 浜地道雄の「異目異耳」

 その12月1日号は、インド最大のTata財閥の総帥、ラタン・タタ氏の12月28日、75才の誕生日を期しての引退を伝えている。「Ratan Tata’s Legacyラタン・タタの遺したもの」(写真)。     

44才のアイルランド国籍のCyrus Mistry氏(非Tataファミリーだが、Parsi族)にバトンタッチした、というもの。 

From pupil to master | The Economist

世界のビジネス界では大きな話題である。     

が、日本人一般の関心を集めた気配はない。しかし、このTataが実は「ペルシャ拝火教松本清張正倉院」とのつながりがあるとなれば、きっとその関心度は上がろうゆえ、筆者の個人的体験も含めてドキドキ感にあふれた、壮大なヒューマン・ドラマであるということを記したい。     

 Tataはイランを出自とする、ゾロアスター教徒、Parsiパルシー(=ペルシャ)族である。      

イスラム教徒の迫害を避けたパルシー教徒は1100年頃に、イラン(ヤズド地方)から船に乗り、インドの西海岸グジャラート州にたどり着いた。そして、12億の人口のインドで、20万人足らずのパルシー族が最大の財閥を形成できる土壌。インドという国は多民族、多宗教を包み込む共生の国だ。     

松本清張は、奈良県飛鳥地方にある謎の石造物が、飛鳥時代に渡来したそのペルシャゾロアスター(拝火)教徒が遺したものと考えた。

hamajimichio.hatenablog.com

         【ムンバイ同時テロ】タージ・マハール・ホテル炎上に思う。     

清張はまた、『魔笛』(モーツアルト)とゾロアスター教とを語っている。

http://janjan.voicejapan.org/culture/0905/0905274117/1.php

さて、12月1日付けThe Economistは本文中で、ラタン・タタ氏の清廉さ(integrity)を挙げている。汚職まみれのインド(corruption-obsessed India)で、汚職に反対する姿勢を毅然と貫いた(stood against corruption)。       

と同時に、「タタ氏は、144年の歴史的企業の5代目に君臨して王様然として秘密主義で(being regal and secretive)、コンピュータハイテク部門のTCSには余り手を出さなかったと非難されている」と記している。   the group’s most successful business, TCS, its technology arm, is the one he left most alone.     

この点、筆者には特記すべき思い出がある。     

 商社勤務だったある日、「インドに行って商売を探して来い」という命令が下った。家父長制下にあっては、上司の命令は絶対だ。(今の若い人には考えにくいだろうが)。     

インド最大の財閥がTataと知った筆者は、インターネットの無い時代、テレックス(だったと思うが)にてその総帥ラタン・タタ氏に面談を申し込み、生まれて初めてのインドに出張した。外貨不足のインドに何かを売るのよりは、何か買うものはないか。ドキドキしながらその本拠、由緒ある「Bombay House」にて接見してくれたタタ氏に「何か買うものはないか?」と尋ねた。即答されたのは「コンピュータ・ソフトウエア」だったーーー。     

 コンピュータ・ソフトウエア!?     

それから知識吸収、業界調査、インドとの往復が始まった。双方のミッション交換もあり、日本事務所の設営まで行った。     

実はその後、筆者自身の転職があり、成果については「Too Early時期が早すぎた」ということではあるのだが、今日、世界を席巻するインドのIT技術、システム・エンジニアリング力を目の当たりにするにつけ、あの時のRatan Tata氏の「先見の明」には感心するばかりである。     

 閉塞感に満ちた今の日本にとって、再度The Economist記事を借りるなら、学ぶべき「強烈な教訓(powerful lesson)」がある:       

*外の世界から得るものは、失うものよりも遥かに大きい(India has far more to gain than lose from the outside world)       

*確たるグローバル化の主張(a firm advocate of globalisation)                                           

今日本で叫ばれる「グローバル化」「国際化」「フラット化」。その根には、時空を超えての「異文化・異宗教」という壮大なロマンがある。魅力にあふれた「ヒューマン・ドラマ」なのだと思えば、知的好奇心から、「知る」ことに大いに力が入ろうというものだ。   「異文化理解」とは実は「(自分とは)異なる」ということの理解だし、異(ちが)うからこその「魅力」である。    

そこでは言葉(英語)が大いなる手段であることは言を待たない。KIP=Knowledge is Power/Pleasure. 

http://www.eigokyoikunews.com/columns/global_business/2012/07/englishnization-knowledge-is-power.html

「参考」:   

http://www.economist.com/news/leaders/21567356-india-should-learn-career-its-most-powerful-businessman-ratan-tatas-legacy  英文解説                                                                             http://the-economist-jbp.seesaa.net/article/305927371.html  日本語解説