浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第43回】 「1Q84」年:Appleの挑戦


2012年06月12日

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"1984" by George Orwell

 

4で割れる年(leap year=閏年)はオリンピックの年であり、米大統領選の年でもある。

1984年、米ロサンジェルスでの第23回夏季オリンピックはキナ臭かった。前回1980年のモスクワ五輪では、その前年のソ連アフガニスタン侵攻に抗議して、多数の西側が不参加。その報復として東側諸国は本大会をボイコットした。今日の世界を揺るがす中東情勢への伏線だ。 


しかし、ビジネス的にはそれまで赤字続きだったオリンピックをテレビ放映料なので黒字にして、「商業主義」への道を開いた。その成功の好影響もあったのだろう、レーガン大統領(共和党)がモンデールを破り、二期目選を圧勝した。

その1984年頭、1月22日、アップル社は最初のマッキントッシュの伝説的なCM映像を発表した。米国で最も人気のあるSuper Bowlにおいて。その何とも挑戦的でユニークな内容が、たった一分、しかも一回のみということで評判を呼び、buzz(ガヤガヤ=口コミ)マーケッティグの金字塔とも言われている。

(音がでるので注意)

その映像は、無機質な囚人服集団に対して演説をする独裁者。そこに赤のランニングパンツの若い女性が乱入し、ハンマーを独裁者に投げつけ、爆発させる。そして、メッセージが現れる。On January 24th, Apple Computer will introduce Macintosh. And you'll see why 1984 won't be like '1984.' 「1月24日、アップルはマッキントッシュを発表します。そして、1984年がなぜ『1984年』のようにならないかがわかります」

この『1984年』こそ、村上春樹氏が啓発されて「1Q84」を創作したというオーウエルのSF作品。1948年作で、8と4を入れ替える言葉遊びanagramだ。
そこに見るソ連型の独裁・管理政治に対する挑戦は、すなわち、聖書(サムエル第一)中の巨人Goliath(=IBM)に打ち勝つDavid(=アップル)の姿であった。

こんな「ニューメディア」の夜明け(1980年没のカナダの文明評論家マクルーハンの言葉)にあって、商社においても「重厚長大(石油・プラント)」ビジネスから「軽薄短小(ソフト・情報)」への展開を図っていた。

今からすれば博物館入り、しかし、だからこそ貴重な言葉がならぶ。 テリドンTele-idon(ギリシャ語で「見る」)や双方向VIDEOTEX(文字画像情報)システムが誕生、カナダでは教育テレビ、農業情報Grassroots、証券市場情報Marketfaxなど、太平洋鉄道の建設に匹敵する可能性をもつとさえ言われた。同様のフランスのMINITELにも刺激を受け、日本電電公社(当時)が「高度情報通信システム」としてキャプテン(Character And Pattern Telephone Access Information Network)Systemの実験を開始したのも1984年だ。

その一員として筆者自身、この電子掲示装置をオリンピック真っ最中のロサンジェルス市内のホテルに持ち込んでの「道案内」「会場案内」「買い物案内」の実験に参画。こころ弾むこれらの画期的な試みは、中東から「あこがれのアメリカ」へ転身の前ぶれでもあった。

あれから28年。インターネットの発達した今では当たり前のことばかりだが、まさにThink different(今までと違う、人とは異なる視点)の世界だった。
この言葉は「1984CM」の翌年に会長の座から追われたSteve Jobsが1997年復帰時のCMスローガンだ。文法的にはThink differentlyとすべきところを、Jobsは単純化にこだわったといわれる。

IBMのモットーThinkに挑戦するメッセージがここにも見られる。Think Differenct

think different - Bing video

(音がでるので注意)

 

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆

 

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