浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第297回】ダーウインに習う「Hybrid人材」

はじめに:

ハイブ・リット!

村上春樹ハイブ・リット (アルク社)

英語教本のタイトルを知って何ごと?と思った。

村上春樹氏の翻訳家としての教材だ(アルク社)。「世界的作家からの英語文学へのインビテーション」とある。同氏が偏愛翻訳した短編小説とのことで、中々、興味深く、引き込まれる。

監修者柴田元幸氏の説明はこうだ:

hybrid(混成の)とliterature(文学)の合成語。アメリカ短編小説という「文学」を原文、翻訳、朗読といろんな角度から味わうことができる。

 

Hybridとは:

さてそこで思う。Hybridって何だ?

その技術的高度性からしてHigh-Breed/High-bredととも思われるが、やはり「ブリッド」とは発音しない。(例えば、競走馬サラブレッド、thorough-bred)

近年話題になっているHVはHybrid Vehicle、即ち、ガソリンと電気を併用してのハイブリッド車だ。

技術革新、近代化という視点で、筆者にとって忘れられないのが1984ロサンジェルス五輪の際持ち込んだのが日本電電公社(当時)開発のCAPTAINシステムだ。

Character And Pattern Telephone Access Information Network System。日本のビデオテックスサービス。そこに採用されたのが画像の符号化伝送方式。文字符号系のコード」方式と、画素に分解するパタン方式を混成して行う「ハイブリッド方式」だった。

【第43回】 「1Q84」年:Appleの挑戦 - 浜地道雄の「異目異耳」

 

さて、改めて辞書を繰ると答は簡単、「動植物の雑種」とある。

An animal produced from parent of different breed。Hybrid from donkey and horse is mule.

 

まず動物 騾馬=Mule

騾馬 (イラスト工房ユニ)

ラテン語hybrida「家畜の雌豚とイノシシの子孫、自由市民と奴隷の子など」に由来する。

比喩的な用法は19世紀半ばに始まった。

18世紀になってイギリスが産業革命を迎えると、全ての工業製品が不足するようになり、糸についても簡単に大量生産する方法が模索された。

が、それ以前、Muleミュール紡績機はイギリスの発明家サミュエル・クロンプトンが1779年に発明した紡績機。

Mule紡織機(wiki)


アークライト紡績機とジェニー紡績機の仕組みの合成。
天然繊維を撚って連続的に糸にする装置の一種。1830年にリチャード・ロバーツが自動化することで、単純作業だけをする労働者が誕生し、社会制度を一変させることになった。

 

そして植物、チューリップ:

Darwin Hybrid Tulip (筆者撮影)

チューリップの歴史は長く、深い。

【第53回】 BulbのBubble - 浜地道雄の「異目異耳」

 

巷では卓越した自然科学者の名を冠したDarwin Hybrid Tullipが取引されている。

一重晩咲きと原種との交配から育成された。育生が旺盛でウイルス病にも強い。

19世紀、ダーウインの言葉までさかのぼる。チャール・ダーウイン「生涯と書簡集」;

Life and Letters: I will tell you what you are.

A Hybrid, a complex cross of lawyers, poet, naturalist, and theologian.

私が君がいったい何者かを教えてあげよう。法律家、詩人、博物学者そして神学者の要素が複雑に交じり合ったもの、その混成したものが君なのだよ!

 

最後に「グローバル人材教育」について:

筆者は先年、縁あってICTを目指す大学生に対し「多文化共生」講座を引き受けたところで、不具合を経験した。折しもの新型コロナ渦で授業に学生たちは登校せず、基本的にはオンラインだ。

【第243回】2022年:ICT 推進の要(かなめ) ~ 異文化理解・多文化共生 - 浜地道雄の「異目異耳」

さて、その操作自体不慣れでもあり、苦労したのだが、それ以上に肝心の相手との「Fact to Face」の対話ができない。

授業や講演では今やハイブリッドという言葉が常識化しているが、実態を考えると、この「リアル」と「リモート」の「混成、両立」は実際のところまだHybrid=完成になっておらず、進化を期待したい。

授業形式は少し進歩し、現在はハイフレックス型。「自由に変化できるハイブリッド型授業」であることを意味する。生徒1人ひとりが対面授業かオンライン授業かを自由に選択できることが、ハイフレックス型の特徴。そのため、ハイフレックス型は、生徒が主体的に取り組みやすい授業スタイルだと言えよう。

が、やはり「人間(信頼)関係」こそがグローバルビジネス展開においても最重要と改めて痛感する。

 

(JOEA「月刊グローバル経営」4月号Global Business English File第96回より転載加筆)

 

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