浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第53回】 BulbのBubble


2013年08月02日

 

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レイマン1世 (Wikipediaより)

1620年代、オランダ人が米東海岸マンハッタンに植民拠点を建設開始、今は黒人文化の拠点となってる地区をHarlemと名づけた。その「本家」はHaarlemだ。(トルコ語の「後宮」はHarem)。首都アムステルダムから電車で20分。あの美しいチューリップの本場だ。

そこで1634年、貴族から庶民まで舞い上がったのがBulb、チューリップの球根投資だ。デュマの『黒いチューリップ』La Tulipe Noireの題材になった Tulpenmanie(蘭)、Tulip Mania(英)だ。

チューリップの原産はトルコ。トルコ人のターバンTülbentの形に似てるのでTulipという名がついたという説がある。Tülbentとはもともとペルシャ語Dulbandだということだが、15世紀末頃から欧州語に取り入れられ時Turbanとなったもの。とすると、「L」vs「R」という日本人にとっての鬼門は欧州人にも同じではないか?と筆者はひとりほくそ笑む。
参照:海賊にみる「RとL」考

とまれ、当時のオランダは平和が続き、海洋貿易で富を蓄え、国力が衰退したスペインにかわり世界の覇権を握りつつあった。

オスマン=トルコから入り品種改良を重ねられた美しいチューリップは、富の象徴として大流行。国民はこぞって球根を買い漁るようになり、投機の対象となった。珍しいBulbの値段は、最高潮時には、平均的な労働者の年収の10倍もの値段が付いた。Haarlemの居酒屋などで「一定期日に球根を入手できる権利」の売買、オプション取引もさかんに行われた。

しかし、1637年のある日、その価格は突然暴落、bulb のbubbleがburstした。オランダ経済は長期間の深刻な不況に陥り、これを機に世界貿易の中心地はロンドンに移っていった。

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チューリップ

そのロンドンで起こったのが、バブル経済の語源になったThe South Sea Bubble南海泡沫事件、常軌を逸した投機ブームだ(1720)。South Seaとは南アメリカ大陸の海岸のことで、1711年、イギリスで南海株式会社が設立され、政府によって対南米貿易の独占権が与えられた。

しかし、当時の南米大陸はスペインの支配下にあり、イギリスと南米との貿易の拡大は現実にはありえず、南海株式会社はほとんど事業による利益をあげてないし、将来的に発展する見通しもなかった。にもかかわらずspeculating frenzy 、1720年の1月には128ポンドだった株価が、6月には1,050ポンドにもなった。

これにならえと、泡沫株式会社が乱立。trading in hairやextracting silver from leadから「a wheel for perpetual motion永久動力輪」とか「carrying on an undertaking of great advantage, but nobody to know what it is 大いに儲かる事業だが、それが何であるか誰も知らない」となると噴飯ものだ。

この動きに待ったをかけるべく、政府は同年7月「泡沫会社禁止法The Bubble Act、Royal Exchange and London Assurance Corporation Act」を制定し、南海株式会社以外の「株式会社」を禁じた。同社の株価を維持のためだったが、その努力も空しく、株価は8月に頭打ちとなり、同年12月には124ポンドにまで暴落した。結果、多くの人が破産し、イギリス経済は大混乱となった。あのニュートンも大損をし "I can calculate the movement of the stars, but not the madness of men"と述べたよし。

同年、フランスによるThe Mississippi Bubbleも弾けた。植民地である北アメリカのミシシッピ川周辺における開発・貿易計画だ。Compagnie du Mississippiミシシッピ会社のこの計画は、開発バブルを引き起こし、会社の業績が極端に悪いのに発行価格の40倍にまで株価が暴騰、下落という事態を招いた。

近年も「.comバブル」や「不動産・金融バブル」が多発、その元祖がBulbのBubbleだと思うと、つくづく、人間の欲は世の東西を問わず際限がない。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2011年9月号)より転載・加筆。

■ 関連拙稿サイト 

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「ORANGEに学ぶ世界貿易」