浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第367回】 small is beautiful ~ 石油ショックからSDGsへ

今は昔。若くして駐在したサウディ・アラビアでは多くの思い出があるが、首都リヤドに赴任直後の1975年3月25日、名君と言われたファイサル国王の暗殺事件での不穏な街の空気は忘れられない。

後年、市外地にある墓を訪ねて驚いた。al-ʿŪud(長老)墓地、即ち「(歴代長老たちと並んでの)共同墓地」。豪華で煌びやかな墓地を想像していただけにその簡素さに驚いた。smallなのだ。

 

その後、1982年、同国王様の思い出は西海岸港町ジェッダでの「王宮palace建設」だ。

KTKN(K健三T丹下、K鹿島Nニチメン)コンソーシアムで請け負った設計施工プロジェクトに参画した。完成引き渡しの最終点検。宮殿自体の素晴らしさに感動、と同時に記憶に残るのはレスト・ルーム(手洗い)。ウーン、成る程。世界をリードする王様も用を足すのはこの小さな一角、smallなのだと感心した。

 

と、このような筆者のsmall感覚の原点は実は第一次石油ショック(1973 )だ。

石油担当駐在員としてかかわった大産油国(イラン及びサウディアラビア)との原油のDirect Deal(メジャーを通さない直接取引)は誇らしいものであった。が、1973年、第三次中東戦争が勃発、同時に石油ショック。日本ではトイレットペーパ騒ぎが起きた。

OPEC産油国連合は原油の競売作戦を取り、消費国同士の値上げ合戦となり、バレル当り2ドルだった価格が一挙に4倍にも達する勢いであった。

【第199回】JANJAN過去記事から(1)トイレット・ペーパ騒 - 浜地道雄の「異目異耳」

現下のコロナ・パニックをも彷彿させる忘れられない痛恨事だ。

 

この石油ショックを見越したような著作がE. F. Schumacherシューマッハの「small is beautiful」だ。Blond & Briggs社1973年刊。

副題a study of economics as if people matteredは人間こそが中心にあるべき経済学、と示唆している。

(*日本語版は「スモール イズ ビューティフル」講談社学術文庫

 

ボン生まれのイギリス人(帰化)経済学者(1911~1977)シューマッハは長年英国石油公社に関与してた経験から本書でエネルギー危機を警告したわけだが、たちまち現実のものとなり一躍世界のベストセラーになり、“現代の予言者”と称された。

現代文明の根底にある物質至上主義と科学技術の巨大信仰を痛撃しながらsustainability(持続可能性)を目指そうという提案である。必要以上に求めるのではなく、地球に今存在しているものと人類が本当に必要なものを理解したうえで、適度な発展を継続的に続ける安定した社会。

大部な論考は4つのPartから成る:

1)The Modern World、2)Resources、3)The Third World、4)Organization and Ownership。

このPart2「資源」は5つの章chapterからなる:

2-1)教育―最大の資源、2-2)土地利用、2-3)工業資源。

4章ではすでに原子力Nuclear Energyを「救いか呪いか」と論じている。

そして、その第5章the human impact of technologyにおいては主題である「人間は小さいものである。だからこそ小さいことは素晴らしいものである」と議論している。

“I have no doubt that it is possible to give a new direction to technological development…

and that also means: to the actual size of man. Man is small, and, therefore, small is beautiful. To go for gigantism is to go for self-destruction.”

大量消費と大量生産を続ける世界では、いつか資源不足や環境問題などの問題によって人類が滅んでしまう、と。

あれから50年。現下評判の映画Perfect Daysの「足るを知る」に一脈通じる。

【第344回】 Perfect Daysに想う ~何気ない日常の至福感 - 浜地道雄の「異目異耳」

 

又、この観点での主要項は2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための17の国際目標であるSustainable Development Goals、略称SDGsである。

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