浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第29回】 日本の誇るBBB


2011年03月22日

 

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Men wanted for hazardous journey.
Small wages.   Bitter cold.

Long months of winter.   
Constant danger.   Safe return doubtful.

Honour and recognition in case of success.

この100年前の英国Sir Ernest Henry Shackleton(1874-1922)による南極探検隊員の募集広告は、「年収アップ」という今時の求人広告とは真反対だ。しかし、これに応じた男どもは5,000人を上回ったという。

今回の東北大地震に立ち向かう人々、そして救済にあたる人々、ことに福島原発事故という未曽有の惨事に立ち向かう勇敢な姿を彷彿させる。TV画面には登場しない、陰の英雄たちをも称えたい。

3月11日、地震発生の時、筆者は東京丸の内の高層ビルの30階で国際ビジネスセミナーに参加していた。その揺れはものすごく、永遠に続くようだった。
それこそ、9・11でのNY-WTC崩壊やThe Towering Inferno(ビル火災の米パニック映画。1974)のビル崩壊のイメージに直結して、この世の終わりとも思える恐ろしさだった。ということは、東北被災地での現場は如何ばかりか、想像を絶する。
ひとしきり揺れが止まり、吐き気と眩暈に悩まされながら、窓の外を見ると、案に反して、周りのビル群にひとつの被害もない。完成間近のスカイタワーも聳えている。
そこで、皆で話した。まさに「BBB」だ、と。Better Bend than Break. 柳に風。「壊れるよりも揺らす」という日本の誇る建築構造技法だ。なるほど、日本のビジネス・スタイルもまさに「対決よりは、時には妥協もして契約・解決にもっていく」ということだ、と説明。皆の賛同を得た。
その後、世界から寄せられる日本(人)の冷静な行動に対する賞賛はまさにこの辺りにある。

東北地震現場での被害においても、ビル・建物崩壊というよりも、事後の 津波によるものであったと後に知った。 それにしてもこの地震津波に続く、福島原発事故においては色々のことを考えさせられる。なかんずく、「間違った情報」の伝わり方、伝え方の危険性、社会的インパクト。その最たるものは「核爆発」「被爆(被曝でなく)」「放射能」「チェルノブイリ」であり、加えて「牛乳・ほうれん草」騒ぎまで登場した。一連の騒動は風評被害に直結するゆえ恐ろしい。それは間違いなくマスメディア、ことに映像による影響だし、ことの成り行きを観察していると、海外(アメリカ)の過剰報道を日本が「輸入」して拡大してるケースも多い。ことに原発事故ということで、これはまさに、チャイナ・シンドローム(The China Syndrome)の世界。原子力発電所事故で、地球を突き抜けて中国まで溶けていくのではないかという恐怖映画だ。1979年、その公開二週間後にスリーマイル原発事故が起きたゆえ、その「風評被害」はいかばかりだったか。

しかし、そんな折に思い出すのはA. Hemingwayのことば。Courage is grace under pressure.
人生波もあれば風もある。仕事がうまく行かない時でも、家族や仲間にしょげた顔を見せられない。危機の時ほど胸を張って平静心を保つ。それが勇気だ。 因みに、シャクルトン卿のひきいた南極探検船はEndurance忍耐という。

さて、これからの日本再建は、公民権運動でのテーマだったWe shall overcome, someday!  但し、somedayではなくsoonだ。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆

 

■ 関連拙稿

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Sir Ernest Henry Shackleton

危機時にこそ冷静さを