浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第32回】 Force Majeure:偉大な力


2011年07月21日

 


「想定外」。この言葉は今や禁句のようだ。
しかし、アラビア(イスラム)文化におけるIBMは「神ならぬ身、人間」の限界を言い表している。I=インシャーラ―(神のみぞ知る)、B=ブクラ(明日)、M=マレシュ(仕方がない)。つまり、人知を尽くして天命を待つ、だ。

3月11日の東北関東地震での被害は津波が大きく、建物倒壊は少なかった。
そこで、スコットランドのことわざBBB (Better Bend/Bow than Break) が想起される。いわば日本の誇る免震構造で、撓(しな)るからこそ安全なのだ。
と、BBBという言葉を信じると、続く余震(After Shock)にあっても、まるでおまじないのように、恐怖感が減る。

続く福島原発事故において言葉の大切さは一層顕著になった。
不可解な数字羅列と難解な専門用語のメディア報道はかえって風評被害をももたらす。
放射能汚染という危険が見えないだけに、海外を含む広報、Public Relationsの問題であり、日本製品ボイコットという経済問題までも引きおこし、風評が逆輸入され混乱が倍加する。
Mediaとは「中間、媒体」という意味のmediumの複数形だから、きちんとした解釈interpret・翻訳translateが望まれる。
Medium is the message.(マクルーハン

実際、危機にあって痛感するのは「言葉の重要さ」。聖書によっても「はじめに言葉ありき」で、この言葉とは神のこととされる。
In the beginning was the Word (ヨハネ 1:1,2)。

国際ビジネス契約上の「不可抗力」とされる語はForce Majeureだが、これはフランス語で「偉大なMajeure力Force」。これを擬人神話的に言えばAct of Godだ。

普段は慈愛に満ちた「母なる自然(Mother Nature)」は時に激しく怒る。1923年9月1日に発生した関東大震災は200万人近くが被災、10余万人が死亡あるいは行方不明となった。その直接の被害に加えて色々な流言飛語が飛び交ったというからやはり言葉の問題は大きい。
関東大震災においては、後藤新平(前東京市長)復興院総裁は米人チャールズ・ビアド(1874-1948)を招聘し、復興計画を作らせた。「モータライゼーションの時代」を予測した計画は巨額で大風呂敷と揶揄されたが、現在も都内の大通りにその業績が残る。そのリーダのもとに、東京市は財政難ながら必要なインフラということでT型フォードを輸入。それが日本の自動車産業の礎となった。

「Force Majeure=偉大な力」はまたリーダシップとも言えよう。イギリスの探検家Ernest Henry Shackleton卿(1874-1922)による、人材募集広告の金字塔とも言うべき「言葉」は、今、被災現場で黙々と復旧、復興にあたる人々の姿と重なる。 
拙稿:日本の誇るBBB

その探検船Endurance(忍耐)号は1916年南極で遭難した。救出まで、一年8か月に亘る苦難の救出作戦の記録を読むと、そこにビジネスにも通じるOptimism, Decisiveness、Humorといったリーダーシップの資質が浮かび上がる。

人生においても仕事においても、危険・リスクが皆無ということはありえない。失敗を恐れぬ勇気が賞賛される。
Longfellowも、運命を呪うのではない、人間の努力を賛美している。
Let us, then, be up and doing,
With a heart for any fate;
Still achieving, still pursuing,
Learn to labour and to wait.

東北大震災を、後世、Father Time「父なる時」の目からみたとき、素晴らしい復興を遂げていることを望みたい。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆 

 

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