浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第18回】 Account:誰でも知ってる厳粛な言葉


2010年02月26日

 

誰でも知ってて、極く普通に使ってる英語が実は日本語に訳しきれない、つまり、それほど深い意味を持ってるという例がある。
その代表は何と言っても「Account」。
日本人ならまず、計算(書)、勘定(書)、(銀行)口座と答えるビジネス上の卑近な言葉である。
ところが、辞書を引いてみると、他に、説明、弁明、記事、話、理由、根拠、評価、価値、考慮、利益、と幾多の訳が記されており、高度な英語と言える。
動詞としても、・・・と思う、説明する、原因[理由]である、占める、責任を持つ、殺す、などと、我々の認識を超える表現がある。

ことほど左様にこの「Account」という言葉は意味が深く、それが政治用語、社会用語はたまた生活用語としても使われるから難しい。
この言葉の全貌を知っておくと、文化知識が随分深まるゆえ、この機に用例を熟読されることをお薦めする。

アメリカに赴任して最初にやらなければならないことは銀行のAccount(口座)の開設。これが中々大変。「(現金を)預けるんだから、すぐに口座を作ってくれ」と言っても基本的にはSSN(社会保障番号)を要求される。
そこでの、普通預金口座(Savings Account)と当座預金口座(Checking Account)の使い分けは日本にはないだけに、最初は戸惑うが生活の必須要件である。

ビジネス上は、Accounting経理、Account settlement決算、Accounting period決算期など日常語である。
また、Account receivableやAccount payableの「受け取るところができる」「支払うことができる」という表現は日本語としてはやや違和感はあるが、それでも前者は「売掛金」、後者は「買掛金」というのは理解ができる。

わからないのが、「Account Executive」。
はて、「経理Account、役員Executive」とは何だろう?
ある営業マンの名刺にあったもので、経理役員のはずはない。
Accountant(会計士)でもない。
調べてみると、これは(広告業や証券業など)サービス業において、「Sales(物品を売る)」とストレートに言うのを避けて、「顧客の側にたって(責任を)遂行する者)」という一種の「飾り言葉」なのだ。要するに「営業担当者」である。
アカデミー賞をとった映画「Wall Street」の中のセリフ「I'll discuss that with the account executive.」を映像翻訳のプロ戸田奈津子さんが「上司と相談します」と誤訳してたのは責められない。

この場合Accountとは「(自分がもってる)勘定先」という意味で、「in account with =と取引する」とか「have an account with=と取引がある」という辺りから、「取引先」つまり顧客という意味になったのであろう。「この客は自分のAccountである」と主張もする。

さて、Accountは高度な行政用語でもある。
日本語で「説明責任」とされるAccountabilityは、首長、職員、議員などが自分の行動や判断について厳しく問われるポイントである。
同じ「責任」でも、responsibleはrespond(反応する)からくるので、やや受身というか消極的だが、accountableはaccount即ち「金勘定」だから厳しいということか。

会計検査院ともいうべきOMB(Office of Management and Budget)が政府資金に関して昨年9月に定めたのはAccountability and Transparency Act「アカウンタビリティーと透明性確保法」だし、各種予算施行に厳しい目を光らせているのはGAO(Government Accountability Office 政府説明責任局)である。

Accountとは「勘定」を重んじる米国らしい厳粛な言葉であり、その極みは「最後の審判=The Great (The Last) Account/Judgment」だ。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆

■ 関連サイト
・「説明責任」は、考えることを止めさす言葉だ
・オスロで、オバマ大統領は「愚挙」についてどう語るのか?