浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第17回】 Orchestrationこそ企業経営の理想


2010年01月27日

 

オーケストラOrchestraとは言うまでもなく管弦楽団
管、絃、(そして打)と様々な役割をもったParts(部品)=Instrument(楽器)=がConductorの指揮のもと、Symphony「交響曲」を奏でる(sounding together)様はまさに企業・組織経営の理想像だ。
Flat化した国際規模でOut-Sourcing(業務外部委託)がおこなわれ、それがPM(Project Manager)の元、「全体をまとめる」Orchestrationというのはビジネス用語になっている。

因みにInstrumentationはコンピュータ用語で「計装、計測」を表す。
音楽(芸術)用語がビジネス用語になっている例は商品・サービスの宣伝でState of Art(芸術の域に達した)という表現もある。Products employing state-of-the-art technologyとは即ち「最先端の技術」を駆使した製品。同義に近いCutting Edge「刃物の先」という鋭すぎて危うい感じよりは温かみを感じる。

あるとき、近所のスーパーの掲示板に「オーケストラのオーボエ募集」とあった。
日本流「アマ・オケ」Amateur Orchestraという感覚で応募参加してみた。
場所はマンハッタンからコネティカットへの通勤途中にある1841年設立の小さなリベラル・アーツの大学。緑に囲まれた美しいキャンパス。練習会場では、まるでモデル誌に出てくるような金髪の女生徒が椅子や譜面台のセッティングの力仕事をやっている。
こっちはアマチュア精神?で手伝おうとしたら「不要」という。そして会費も不要という。

いろんなことが分かった。大学には音楽コースがあり、そこに「オーケストラ」つまり「総合演習」の授業がある。ところが、オーボエのような特殊楽器は奏者がいないことがある。 それではOrchestrationが成り立たないので市民募集をして揃えるということだ。
したがって、会費もとらないし、セッティングや片づけの仕事もさせない。
他方、その仕事をするのは「授業貢献」としてクレジット(単位)に加算されるから、学生は進んでその任を引き受ける。なるほど合理主義とはこういうものかと感じた。

学期の最後の演奏会はキャンパス内でキャッスルと称される中世風の館だ。正装して緊張しつつ、楽しい演奏会が終わった。打ち上げコンパを期待していたが何もなく、次の秋期までお休みとのこと。Have a nice holidayとかSee you again in fallとか言って、あっさり散っていく。これがこの地の文化なのか、と驚いたものであった。

オーケストラとはフィルハーモニーPhil-Harmony(調和)だし、このPhil(o)とは「友情的な愛」。共同練習の仕上げの夏の宵、皆でちょっと一杯やりながら「友愛」をベースに「調和」しよう、という期待は外れた。

CSRの一環フィランソソフィーとはPhil(愛)+Anthropos(人類)。
初期アメリカの政治の中心フィラデルフィアはPhil+Adelphos(兄弟)で、この聖書にもあるギリシャ語は中東ヨルダンの首都アンマンの旧名でもある。
スペイン皇太子の名からとったのはフィリピナス諸島Philippines。

問題多発の時代、企業経営で一番大事な哲学とはPhilo-Sophia(知恵)。愛智学。
そしてミュージカル「ライオン・キング」で、「Problem-free=問題ゼロ=Philosophy」を掲げるブンバは歌い上げる。「Hakuna Matata!どうにかなるさ、気楽に行こう!」と。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆

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