浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第106回】Trump 米大統領は trump できるのか?


2017年6月1日

 

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全米プロレス協会 (Stamford, CT)

わが家にとって一大転機だった1992年5月1日は2度あった。

つまり、転勤。男女4人の子どもを連れて同日成田を発ち、(時差の関係で)同日、「あこがれのアメリカ」NJ州のニューアーク飛行場に降り立った。そこでレンタカーを駆ってマンハッタンのホテルに向かった。

生まれて初めてのアメリカでの May Day は快晴。マンハッタンが輝くがごとく迎えてくれ、その摩天楼群に目を奪われたものだ。1983年に完成したというTrumpTower (202m)の金色の入り口は豪華だった。

興奮の時を過ごした後、あらかじめ新居と定めてあった花みずき (Dogwood) の美しいニューイングランドコネティカット州の Darien市に向かう。隣町 Stamford市 (スタンフォードStanfordではない!) には WWF という看板のあるビル。それは現在の WWEWorld Wrestling Entertainmentすなわち全米プロレス協会、といってもNY市場に上場の株式会社だ。その HALL OF FAME (殿堂)には、ドナルド・トランプアーノルド・シュワルツェネッガーと並んで日本からはアントニオ猪木が登録されている。WWEが、Trump現米大統領が大いに注力した団体だということは後年知った。事実、同大統領はその共同創業者の Ms. Linda Marie McMahon を中小企業局長 Administrator of the Small Business Administration に指名した。

さて、初めてのアメリカに向かうに当たり異文化理解の有効な手段は、映画『Back To The Future (BTF)」だった。1985年から55年にさかのぼり、そこからさらに2015年まで跳ぶという奇想天外なSFに子どもらも大いに魅了され、一家挙げて学習 (英語・異文化・生活ぶり)した。

 

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バックトゥーザフューチャーの悪役ビフ

カリフォルニア州の架空の街、Hill Valley の高校での不良はビフ・タンネン。主人公 Marty McFly をチキン (ニワトリ=弱虫) とからかうBiff Tannen は Beef (牛肉)という言葉遊びだ。その BTF PART2 では、ビフが長じて不動産で大もうけをし市会議員に上り詰め、27階建てカジノのオーナーとして登場する。町の悪役ビフが美女らと入浴するシーンなど、オヤジとしては子どもらに見せたくない汚らわしいシーンだった。これらの設定が実は Donald Trump から着想を得ていたと同映画の脚本家 Bob Galeが明かしている。

考えてみれば Trump とは面白い名前だが、単純で分かりやすい「強いブランドカ」だ。ドイツ移民である祖父 Drumpf (ドウルンプ)が改名しなければ、ここまではいかなかったという論説もある。日本でトランプと言われる「西洋カルタ」は英語では playing card (set)であり、trumpとは本来は賭け事用語で、「切り札」「奥の手」という意味。明治初期にその思い違いから使われるようになったよし。やっつけるという意味もあり、trump Trump とはすなわちトランプをやっつけろという意味になる。Trumpには「頼もしい人」(口語) という意味もあり、turn (come) up trump というと、トントン拍子にうまくいくということになる。

それにしても、「America First」を掲げて当選、100日を過ぎた段階でTrump氏はインタビューに「大統領職は前職 (不動産業) より仕事量が多い。もっとやさしいと思ってたのに」と答えて物議をかもした。“This is more work than in my previous life. I thought it would be easier.” (4月29日、ロイター)

はてさて、Trump大統領はtrump (切り札としてうまくことを運ぶこと)できるのか?

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 67」より転載・加筆