浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第109回】ハンバーガー連想 〜White Castle から White Houseへ〜

 

2017年11月1日

 

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White Castle ハンバーガ

White Castle

“White Castle”とは、米国で(すなわち、世界で)最老舗のハンバーガーチェーンだ。「白い城」の名の通り、店構えは城の形をしている。1921年カンザス州ウイチタでの創業。(紙包でなく)箱入りで、5cm角の小ぶりのハンバーガーは直接口に入るので slider と呼ばれる。創業者イングラムフランチャイズ化も資金借り入れも拒み、以来420店舗に留まっている。それらは主として米・中西部 Mid-East にある(ちなみに、最大手マクドナルドは全世界で約3万2000店舗)。

 

McDonald's

この夏、日本でも封切られた映画「THE FOUNDER (創業者) 」、その邦題は『ハンバーガー帝国の秘密』とあるゆえに、てっきり White Castle 絡みの話かと思い予備知識なしに鑑賞した。ミルクシェーク機の会社の経営者 兼 販売員だった当時50代のレイ・クロック (Ray Kroc)、その顧客となった McDonald 兄弟 (Maurice と Richard) が興したカリフォルニアのハンバーガー店を訪ねてその革新的なシステムにほれ込み、競争社会の中でのし上がっていく。クロックは自分の名前 Kroc (チェコ系) では商機なしとみて、McDonald (スコットランドアイルランド系) に固執した。つまり branding 作戦。McDonald 兄弟との確執の一因にもなったが、日本にも影響を与えたビジネス・サクセス・ストーリーだ。

 

ピール牧師

見逃しかねないが、その映画の中に主人公が毎朝、LPレコードをかけて本の朗読を聴くという極めて重要な場面がある。それが、1952年出版、41ヵ国語に翻訳され 60年間で 2000万部、今なお読まれている超ベストセラー自己啓発書「積極的考え方の力 (The Power of Positive Thinking) 〜成功と幸福を手にする17の原則』だ。著者はピール牧師 (Norman Vincent Peale、1898〜1993)。レコードの声の主は著者自身と思われる。この中には、例えば、マルコ伝 9章23節のイエスのことば “Every thing is possible for one who believes." などが出てくる。  

 

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Marble Collegiate 教会

White House

実は、このビール牧師こそが、White Castle ならぬ White House の主、D・トランプ米大統領の「積極的行状」に影響を与えた人物なのである。同大統領は父フレッドに連れられ、子どもの頃から教会礼拝を欠かさなかった。場所はマンハッタン、5番街と29丁目の角にあるプロテスタントのオランダ移民が設立した Marble Collegiate (共同)教会。建造は1854年だが、創始は1628年というから清教徒のプリムス上陸時代にまでさかのぼる。ピールはこの由緒ある教会の首席牧師を52年間務めた。若きトランプはこの教会で、ピール牧師の司式 preside で最初の妻イヴァナ (イヴァンカの母、チェコ出身) と結婚式を挙げた。

「勇気をもって “Be daring"、誰よりも先に “Be first"、人と違うことを“ Be different"」を処世訓としたクロックと、トランプの積極性は一脈通じる。他方、敬けんなキリスト教徒を自称しピールに心酔したトランプだが、「他人に親切に。謙虚であれ」といった聖句は無視のようだ (参照:森本あんり「D・トランプの神学」『世界』1月号)。

聖書の教えに必ずしも忠実ではない実態が明らかになるにつれ、大統領選で彼を応援した中西部の敬けんな人々ーWhite Supremacy (白人優越感) を持ちながらも貧困にあえぐ層の支持も減りつつあるという。

と、同時に、トランプを圧倒的に支持するという「福音派」。事態の判断は容易ではない。

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 69」より転載・加筆