浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第110回】Singularity:人類の未来を示唆する深遠なことば

 

2018年1月1日

 

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Singularity University ロゴ

元旦。「旦」とは、地平線からの日の出を表す象形文字。我々日本人にとっては先祖から伝わる文化的喜びだ。

他方、世界には1月1日を必ずしも祝わない文化も多々あり、中東、米国、インドなどでの駐在、出張時にそれを体感した。

ともあれ、日本ではこの一年の始まりは「初日の出」として「晴れ」が期待されるのだが、気象上は1月16日が特異な「晴れ日」だ。長年の平均で特定の日に、ある気象状態が偶然とは考えられないほど高い確率で出現し、かつその前後の出現確率がそれほど大きくない時、その日を特異日 “Singularity” と呼ぶ。

日本では1月16日や3月14日、および11月3日の「晴れ」。4月3日の「春の荒れ」、4月6日の「寒の戻り」。5月2日の「八十八夜の別れ霜」や6月11日の「入梅」。9月17日および26日の「台風来襲」などがよく知られる。

さて、このSingularityという単語は人類の未来を示唆する深遠なことばだ。米国の未来学者、レイ・カーツワイル Ray Kurzweil (1948~) が2005年、「[The Singularity Is Near When Humans Transcend Biology」で、技術的特異点・シンギュラリティーについての踏み込んだ記述を展開、コンピュータが人類の知性を超える「特異点は近い」としてその時期を「2045年」だ と提起した。

人類の文明発達の歴史は、農耕→文字を使って情報伝達→車輪を使ってものを運ぶ→都市国家を形成→印刷技術の発明→大量の情報伝達。

これらの進化、文明の発達の間隔が数万年から、数千年、数百年だったものが近年は短くなり、今や情報・コンピュータの時代の速度は想像を絶する。

昨今、「バック転」すらするロボットが話題になっている。ロボットという概念はチェコスロバキア(当時)の小説家カレル·チャペックの戯曲『RUR ロッサム万能ロボット商会』(チェコ語で強制労働を意味するRobota) に由来する。このロボットは人間 (主人) を超えて、反乱を起こすに至るゆえ、究極のイメージは良く ない。

今や小学校での教育においてもプログラミング授業を子どもたちが嬉々として取り組んでいるところもあるが、このような技術の早い進展を考えると Singularity は 2045年より前倒しにという説もある。

考えてみると、「TVゲーム」や「スマホゲーム」は「戦い = 敵を倒す = 戦争」が主流を占めている。未来に向けての人工知能AI技術、その先を考えると「平和構築のための AI、ゲーム、プログラミング」の発展が期待できないものだろうか。

シリコンバレーでは前述のカーツワイルらが参画し、SingularityUniversityを創設 (08)、革新的技術を開発する企業のための、新しいスタイルのスタートアップ・インキュベーターとして各種活動を行っている。

他方、例えば同じ米国でも西海岸シリコンバレーとは反対の東海岸には、今なお近代機械文明を拒否するアーミッシュ (Pennsylvania Dutch) が20万人いる。電気、通信機器・電話などを生活に導入することを拒み、近代以前と同様の生活様式を基本に農耕や牧畜を行い、自給自足の生活を平和裏に営んでいる。

ことは究極「人間の幸せ」論になってくるわけであり、Singularityとは年の初めに熟考するに値することばだ。 

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 70」より転載・加筆