浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第112回】深遠なることば ECUMENISM

 

2018年6月1日

 

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ICAN事務局長 Beatrice Fihn 女史と筆者

ノーベル平和賞2017は ICAN (International Campaign to Abolish Nuclear Weapons) に与えられた。I canとは覚えやすい絶妙のネーミング。

07年にオーストラリアで発足した国際NGOネットワークで、世界101カ国の468もの団体からなる連合だ。その Executive Director事務局長 Beatrice Fihn女史は35歳のスウェーデン人。平和運動に縁のある筆者は来日の機に会って、状況を聞くことができた。

驚くのは、スイス・ジュネーブにある本部で運営にあたっているのは何とわずか5人の若者とのこと。そこから、世界的運動として発展させた要因は Internet と English。なるほど、今や「世界共通語としての英語」が発揮されている。写真を見ると、事務所は日本流に言えば「雑居ビル」の一室 30方平メートル程度の小さなものだが、ビルの案内板のトップには「ECUMENICAL CENTRE」とある。ECUMENICAL?なじみのない言葉。辞書を引くと簡単に「 (キリスト教) 異なる教派を統一すること」とあるが、今ひとつ分からない。専門家たちにも聞いたが、定かではない。

そんな折、畏友、野元晋教授(慶悪義塾大学、中東思想史)から、「ECUMENICALとはキリスト教を主体とする宗派、宗教を超えるきわめて重要な言葉」と目の覚めるような解説をいただいた。

ビルの案内板には Ecumenical Organizations という括りがあり、その傘下には、例えば、非常に重要な世界教会協議会であるWCC (World Council of Churches)、そしてルター派世界連盟 The Lutheran World Federationなどそうそうたる国際機関が入っている。さらに、Ecumenical Patriarchate Representation 「世界総主教座代表部」も。野元教授によれば、かつて東ローマ帝国ビザンツ帝国の首都であったコンスタンティノポリス (イスタンブール) の総主教座で、1453年の同都陥落後のオスマン帝国支配を生き抜き、今もトルコ共和国の管理下で存続し、東方正教会の世界的名誉総主教座の地位にある。

ところで、Ecumenical の語源であるギリシャ語 Oikoumené は「人が住む地域」という意味を持つ言葉で世界全体を指すようになった。その構成要素の Oikos は「家」「人が住む場所」全般を意味し、これが Oikonomia となると、Nomos (「法」、「規則」)の意味が加わり、「家族の管理」となり、転じて「管理」、「行政」の意味も出てくる。このOikonomiaはEconomy (節約、倹約、経済) の語源である。つまりEconomyとは「家政の学問」という意味であり、そこから発展して今日の「経済」という意味となった。

以前1987年、宗教を禁止したはずのアルバニアで会った日本語を話すティラナ放送局員Ikonomi氏が「キリスト教教会の家政·執事の家系」と言ったことを思いだす (本誌:15年9月号)。同氏は現在、米国ワシントンDCでVOA (Voice of America) の要職にある。

参照:【第97回】 アルバニアを生きる 〜 IkonomiとEconomy - 浜地道雄の「異目異耳」

昔は「商売上は政治と宗教の話はするな」ということだった。が、ICAN が示すごとく、世はまさにInternet とEnglish で Global化まっしぐら。異文化(宗教)理解も必須条件になっている。そんな時代にあって、このECUMENISM (名詞という深遠な言葉は知っておく価値がある。

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 72」より転載・加筆