浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第424回】小泉八雲(Lafcadio Hearn)が魅入られたEXPO1884

EXPO2025大阪・関西万博が10月13日に閉幕した。

London(1851)、New York(1853)、Paris(1854)を筆頭に脈々と続くUniversal Exposition=万国博覧会。それぞれ時代の先端を走り後世へのレガシーを残してきた。

一方、その直前9月29日にはNHKの連続TV小説「ばけばけ」が始まった。

明治期に来日した英語教師、小泉八雲ラフカディオ・ハーンPatrick Lafcadio Hearn)は多くの作品を残したが、朝ドラはその陰の功績者である妻セツの物語である。

 その小泉八雲は今風に言えばグローバルさすらい人であり、異文化理解という視点からして極めて興味深い。

日本語のできない八雲と、そこに住み込み女中として仕えたセツは、結婚し、そして二人は「ヘルン(ハーン)言葉」を作り出し、コミュニケーションを図った。

Rihei Tomishige (1837~1922) 撮影

ヘルン言葉とは日本語の単語や慣用語から助詞を抜き、動詞・形容詞の活用はなく、語順は英語という二人だけの秘密の言葉だ。

ハーンは「面白い話をして下さい」と頼み、セツは語り部として八雲の作家活動を支え、名作「怪談」や「耳なし芳一」など数々の名作を生むことになった。 

さて、夫である八雲(ハーン)の来歴はグローバル視点からして興味深い。知られるごとく、アイルランド出身でギリシャに駐在してたイギリス陸軍医補とイオニア諸島の一つシラ島の名門ギリシャ人女性の間に次男としてレフカダ島1850年に生まれた。1869年、19歳の時、移民船に乗り単身渡米。

文才を認められ、1874年オハイオ州のCincinnati Enquirer社の正社員となり殺人事件の記事などを次々と書きその名を世に知らしめていった。

そこでの結婚は破綻、1877年10月、逃げるようにルイジアナ州のニューオルリンズに居を移し、そこで次第にジャーナリストとして頭角を現した。

1881年アメリカ南部第一の大新聞社Times & Democratに文芸部長として迎え入れられ、1883年にはニューヨークの有力出版社Harper & Brothersの仕事も始めた。 

そして、このニューオルリンズでハーンが遭遇したのが1884年の世界博覧会The International Industrial and Cotton Centennial Exposition at New Orleans,1884だ。「万国工業兼綿百年期博覧会」と称される。

 当時、米国で生産されたcotton綿花のほぼ3分の1がニューオーリンズで取り扱われ、市が綿花取引の本拠地だった。 Centennialとは、1784年にアメリカからイギリスに出荷されたコットンの輸出の最古の記録を指し、つまり、世界産業綿花100周年博覧会として知られている。

 cotton綿花は極めて重要な産業であり、それを支えてたのは黒人奴隷であった、この奴隷制度に反対するリンカーン(共和党)が大統領に選ばれたことがきっかけで南北戦争が勃発した(1861~1865)。

 cotton綿花産業を支えてる労働(奴隷)問題は重要課題であり、建国間もない「アメリカ合州国」の歴史に示されている。リンカーン奴隷解放宣言:1863年

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 又、フォスターの名曲♬Old Black Joe♫は一生綿花労働をしてきた黒人奴隷の哀歌だ (1860年)。

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 ハーン・八雲は、ニューオーリンズ万国博覧会の日本館にて展示されていた小さくて繊細な美術品に強く惹かれたことが日本に憧れるきっかけとなった。以来、「KOJIKI(古事記)」や日本の神話を読むことで、日本への憧憬を深くした。

 そして、1890(明治23)年、日本に関するエッセイや小説を月刊誌に掲載することを条件に、前述「Harper社」と契約して来日するに至ったのだ。

 ハーン・八雲はニューオルリンズではフランス地区のバーボン・ストリートに10年ほど寄住した。

バーボン・ストリート | Link-USA アメリカの旅行・観光の情報サイト

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 さあ、朝ドラにあって、ハーン・八雲、セツ夫妻はどのように描かれるかーー。

 

そして今、目を向けるべきはEXPO2030 、リヤド。

5年後の世界はどうなっているのか?

 小泉八雲を魅了した「贅沢を憎み簡素を貴ぶ素晴らしい東洋の国、日本」(1894明治27年1月27日熊本での講演)は維持できているだろうか?

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