浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第181回】米大統領 〜 Fat Lady への期待

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fat lady

 

2021年1月1日

 

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Cooper Union

2020 年 11月3日(火)の POTUS 米大統領選挙。

以後、何やら混迷の様子を伝える某紙の見出し はこうだ。

“The game is never over until the fat lady sings.”

太った女性が歌う? 調べると、例えばワーグナーの長編オペラ「指環(Ring) シリーズ」。その最後にソプラノ歌手が20 分間とうとうと歌い、ようやく幕が閉じる。確かに体力勝負だ。「彼女が歌い終わるまでゲームは決着がつかない」とは何とも意味深な表現だ。

今回のPOTUS戦の重要論点のひとつはBlack Lives Matter(BLM)。アフリカ系アメリカ人に対する人種差別抗議運動。そこで、想起するのは A. リンカーン大統領の「奴隷解放」。その大統領候補としての重要な出発点は1860 年2月 27 日の有名な「クーパー・ユニオン演説」だった。

参照:Pin on a little history

場所はNYC マンハッタン、ワシントン広場の近くにある4年制大学クーパー・ユニオン(現存)の講堂Great Hall。同校創立者のクーパー(Peter Cooper、1791−1883)は NYC で生まれたが、学校教育は受けられず、幼い頃から丁稚奉公に。だが、多くの特許を取得し、その収入で事業を起こして大成功を収め、当時の米国で一二を争う富豪になった。そして、「教育は人種や宗教、社会的地位とは関係なく、資格のある者が無料で受けられるべき」と主張した。

私事ながら筆者次女が同校に入学許可され(Art 専攻)、何と4年間の授業料は全額免除(奨学金)だった。米国籍を有しないアジアの子女の才能を認めて無料とする、その寛容さに驚いたものだ。

奴隷制を制限することを繰り返し求めたリンカーンのクーパー・ユニオン演説は圧倒的支持を受け、ここを原点として結果5月18 日、シカゴで開催された共和党全国大会での3回目の投票でリンカーンは候補に選ばれた。そして、いよいよ1860 年 11 月6日(火)の本選挙。リンカーン民主党候補を破り、共和党(別名で GOP:Grand Old Party と呼ばれる)としては初めてとなるアメリカ合衆国第16 代大統領となった。

1861年3月4日の就任式、リンカーンは(南部の市民向けを意識して)大統領就任演説をこう締めくくった。

We are not enemies, but friends. We must not be enemies. Though passion may have strained, it must not break our bonds of affection.(略)”

(私たちは敵同士ではありません、友人です。敵対してはなりません。 たとえ感情が高ぶることがあっても、愛情の絆を断ち切るべきではないのです)

が、何とその後、南部はリンカーンの大統領就任を受け入れず、「南北戦争 American Civil War(1861−1865)」となった。奴隷制存続を主張する南部 11 州は「アメリカ連合国 Confederate States of America」(CSA)を結成して、北部 23 州との間で戦争となった。

何やら暗示的だが、さあ、いよいよ新年1月20 日、大統領就任式。 「体格のよい女神」の世界調和への託宣を期待したい。

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ボストンのリンカーン

ところで、旧臘2020年12月29日。ボストンにあるリンカーン像が撤去された(共同・写真AP)。それはデモ隊や過激派などによる暴力的撤去ではなく、同市議会での決議によるものとのこと。

確かに、このEMANCIPATION(解放)と銘打ったリンカーン立像には半裸の黒人奴隷が跪(ひざまず)いている。

「人間は平等」という精神からすればこれまた暗示的であり、世界レベルで「人権問題」を考えるべき時代になりつつある。

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 85」より転載・加筆