2009年08月24日
1918年に故松下幸之助氏が個人創業した松下電器産業が2008年10月1日、社名をPan(a)(汎)− Sonic(音)に変えた。Ah, the legacy is gone! 他人ごと( = None of my business)と思えない寂しさが残る。
片や、1940年、McDonaldが始めたハンバーガ店の権利を買った企業家のRay Krocは1955年にMcDonald's社を設立、創業者の名前を残した。
アメリカには創業者の姓(Family Name)を掲げる伝統企業が多い。巨大化学会社はフランス移民デュポン(E.I. du Pont)が1802年に創業したものだし、Mellon財閥は1870年の創業。ヘルスケアの最大手Johnson & Johnsonとは1886年に創業した兄弟。J.P. Morgan は1895年創立の金融財閥。Moodyは1900年に格付け会社を創立。Ford Motorsの創立は1903年、証券大手Merrill Lynchも1914年創業パートナーの名前、と枚挙に暇がない。Carnegie、Rockefellerなどもなじみの個人名である。
巨大な非上場同族経営はことに興味深い。1865年の創立のCargill社は世界の穀物市場を支配する。Bechtelは1898年に創業、中東地域でも活躍。今をときめくKochの創業は1940年と新しい。
さて、松下翁の創業と同じころ操業開始し、Oldest continually family-owned company business in Americaと公認されている企業がボストンにある。
Zildjian社のシンバル |
某年、飛行機で「Zildjian」ジルジャンというロゴ入りのTシャツ姿の金髪婦人と隣り合わせた。「Are you a drummer?」と聞いたら「Zildjianは私の名前であり、かつ私が経営する会社名だ」というので驚いた。Zildjianとはシンバルの名前。世界市場を席巻するブランドだ。
話は380年前のオスマン帝国の首都コンスタンティノープル(イスタンブール)にさかのぼる。皇帝に仕えるアルメニア人錬金術師アヴェディスが独自の合金法で芸術的シンバルを作ったのが1623年である。透明感ある力強い音を発する彼のシンバルは、皇帝付きのその名も高いJanissary軍楽隊に採用され、日常的な祈り、宗教上の祝祭、皇室行事に使われた。
後に、モーツァルトやベートーベン、シューベルトが想いを表わしたトルコ音楽と無縁ではない。皇帝ムスタファはトルコ語で「シンバル職人」を意味するズィルジ(zildji)にアルメニア語で「息子」を意味する語尾イアン(-ian)を付け、ジルジャンSon of cymbal makerという称号を彼に授けた。1867年のパリなど多くの国際博覧会で受賞している。
1920年代、一族でアメリカに移民していたアヴェディス3世が家伝の製造法を伝授されてボストン近郊でシンバル製造を始め、ちょうどジャズの台頭とともに世界中で大いに使われるようになった。このCymbalは今のディジタル時代にも超然とアナログ音を誇り、家族経営、優位技術、ブランドといったHeritage伝統の力をわれわれに語ってくれる。
この楽しい企業史をChristina Ahmadjian一橋大学院教授(ボストンにあるハーバード大で学ばれた)に話したところ「知らなかった」と喜ばれた。
こちら俗人は「企業経営論の専門家に教えた」と悦にいったものだ。
なお、そのアメージャン女史は、本年6月、エーザイ(株)の社外取締役に選出されている。
(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」2008年6月号より転載・加筆
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