浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第88回】 米大統領選に異文化Showを見る

 

2016年11月08日

 

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英語) 浜地道雄・浜地絵里 (著)

ヒラリー・クリントン候補の健康問題はともかく、ドナルド・トランプ候補の暴言の数々は従来のアメリカの規範、PC(Political Correctness)からすると考えられない現象だ。そのTV討論会などを見ているとまるでParty(本来「政党」だが米語でどんちゃん騒ぎ)、否、Show見世物だ。醜い舌戦が終わると握手。ビジネス交渉の見本とは言えないが、アメリカ人気質を見ることが出来る。

とにかくわかりにくい選挙制度だが、以下に見るごとくまさに(歴史に支えられた)「異文化」と言える。

例えば、この11月8日(火曜日)の本選挙結果で、次期大統領が決まる。だがこれは正式ではない。確かにこの日には選挙人Elector団が選ばれ、これを(United States Electoral )Collegeという。「大学」の意味ではなく、語源Colleague仲間だ。ところが彼らが「投票」するのは12月半ば。

それで決まりかと思うとさにあらず、このCollege選の結果は翌2017年1月6日、連邦議会で開票されるまで待たねばならない。そこで選ばれた者が晴れて次期大統領として、1月20日正午、最高裁判所長官の立会いのもとに、「So help me God」と宣誓Oathしてはじめて正式になる。

選挙から誕生まで3ヶ月近くかかるという所以がここにある。交通・通信が発達していなかった時代、全国の票を短期間で集計することができなかったことの名残だ。
そもそも、米大統領選挙は4年に一度、オリンピックの開催されるうるう年Leapの11月の「最初の月曜日の翌日、火曜日」、今年2016年は11月8日に行われる。なぜこんな持って回った言い方になるかというと、11月1日が火曜日の場合10月の決算で忙しいからだという説がある。


では、なぜ日本のように日曜日ではなく、火曜日なのか?
日曜日は安息日で、仕事(公務)をする日ではない。広い州では月曜日に馬車で出発して、火曜日に投票所に到着するという歴史がある。

キリノ大統領の記念碑
Super Tuesdayについて

選挙戦の始まり1月から6月、各州でのPrimary(なぜか「予備」と訳される)選挙、または党員集会( コーカスCaucus )で選挙人を選ぶ。コーカスとは元々アメリカインディアンの「相談相手」を意味する言葉 kawlkawlasu に由来する。

そして3月のはじめがSuper Tuesdayだ。Superとは「大きい」だから、本選挙(11月)をスーパーというのかと思うが違う。

カリフォルニアなど選挙人の多い州で予備選挙が行われ、そこで最多数票を得た党がすべてを獲得するWiner-take-all方式で、大勢を決する重要選挙だからSuperと呼ばれる。そして、夏の各党大会で「候補」が決まる。

米国では不思議なことに副大統領の存在感があまりない。が、大統領任期4年間の間にもしものことがあれば、直ちに副大統領が昇格する。 1963年11月22日、時の大統領JFケネディーがダラスで凶弾に倒れた時、僅か数時間後、ジャクリーヌ未亡人が血痕のついた洋服のまま、専用機の中でジョンソン副大統領の昇格就任式に立ち会った図は脳裏に焼き付いている。

夏の党大会で、それぞれ副大統領候補(Running Mate)をも決めるが、この正・副の組合せをTicketという。民主党ヴァージニア州選出のTim Kaine上院議員を、共和党インディアナ州のMike Pence知事を指名した。両者ともTV討論会では紳士的で、こちらのほうがリーダーに相応しいようにもみえるほどだ。

さあ、このTicket(切符)は新しい「E Pluribus Unum」(ラテン語で「多くから一つに」という米国の標語)でどういうShow(展開)を見せてくれるか?

 

 

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2016年11月号)より転載・加筆。

 

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