2014年08月20日
エフェソスとイズミールの位置 |
神秘的な黒海の周辺は複雑な治政の交差地だ。北側はクリミアを含むウクライナで、ソチ冬季五輪以後、思わぬ紛争に発展していった。そして、南側はトルコ。違う様相で異文化が絡み合う。黒海の出口、イスタンブールは西洋と東洋の接点だ。
自社駐在員もいなかったイスタンブールに初めて降り立ち、偶然、タクシーが連れて行ってくれたのが「ペラ・パレス」という古いホテル(1895年建造)。
「オリエント急行」の欧州側の終着駅。アジア側行きの船に乗り換えるために乗客は下車、宿泊・社交の場。先年パレスチナからの帰途訪ねた際、新改装のこのホテルに古い蛇腹ドアのエレベータが残されていたのは懐かしかった。
同地で、ボスポラス海峡を跨ぐ高さ50mの巨大橋を仰ぐと感無量だ。日本のIHIの建設で(1989年)、BOTだと聞いた。BOT? 邦銀名かと思うとさにあらず。Build, Operate and Transferだという。建造して、運営して、最終的に相手に引き渡す。大変な「投資」案件と感心したものだ。
その橋を渡ると、そこは古来「アナトリア」と称される地域。そもそもトルコという名称は民族的であり、アナトリアとは元々ギリシャ語で「東」だ。
そこから南下すると有名なトロイの遺跡。それを越えると、そこは新約聖書の世界。「ヨハネの黙示録John: Revelation」には7つの教会名が上げられているが、みなこの地域にある。うち、我々が知るペルガモン Pergamumはベルリンの大きな博物館の名前となっている。その意味するところはこの地域からの遺物が運ばれたということ。続くフィラデルフィアPhiladelphiaは、中東ヨルダン国の首都アンマンの旧名でもあり、米国ペンシルバニア州の都市の名前にもなってる。古代ギリシャ語でPhil(愛)+Adelphos(兄弟)、即ち兄弟愛。同様、Phil-Harmonic(音楽)、 Phil-Anthropy(人間)だし、Philo-Sophia(智)は哲学。上智大学の英文名はSophiaだ。
さらに南下するとエフェソスEphesus。聖パウロPaulの宣教旅行の逗留地だった。
Paulはキリスト迫害のパリサイ人だったが、神がかりに会った「目からウロコ」の逸話は今、日常会話に残る。There fell from his eyes what looked like scales(使徒伝Acts)。某年、時代劇で「目からウロコ」というセリフがあったのは可笑しい。
イズミールのカバブ売り(新宿公園にて) |
同地には古い円形劇場があり、近くにキリストの母マリアが晩年過ごしたという「小屋」もある。因みに、マリアはイスラーム教の聖クルアーンに出てくる唯一の女性名だ。キリスト教とイスラーム教(及びユダヤ教)が同根であるということは存外知られてない。
ところで、この地はまた「小アジア」Asia Minoreともよばれる。「アジア」の語源である「assu」は「(エーゲ海の)東」という意味。(他方ereb 「西」がヨーロッパの語源)。時代が進み、このアジア(東)はとてつもなく広がる世界の一部に過ぎないということが分かり「小アジア」と呼ばれるに至った。
なるほど、アラビア、イランなども中近「東」、即ち「アジア」なのだ。
その境目がボスポラス海峡。そこで、英国のノーベル賞詩人J R キップリングはEast is East, and West is Westと詠った(1898年)。それを受けて、アジア女性(オノ・ヨーコ)を妻としたジョン・レノンはEast is West, and West is Eastと「東西融和」を歌った(♪You are here♪)。
「憲法九条にノーベル平和賞を」運動に賛同してくれているMITのNチョムスキー教授(現存で最高の知識人=NYタイムズ、父はウクライナ出身)も中東に縁が深く、「東西融和」を主張している。
一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2014年7/8月号)より転載・加筆。
■ 関連拙稿サイト
・ソチはどこじゃ?
・オリエント(日が昇る)に思う
・「ダルビッシュ」に思う中東地政
・西東詩集管弦楽団
・チョムスキー教授来日講演 〜 世界平和への共鳴