浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第61回】 ソチはどこじゃ? 〜 黒海を巡りODESSAに至る


2014年04月07日

 

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ソチの地図:日刊スポーツから転送。

世界に「色」のついた海、紅海、黄海白海などあるが、黒海ほどその名に相応しい海はなかろう。そのほとりに立つと、確かに黒く深いという印象。と同時に多様な文化・文明が歴史上絡み合って、まるでBlack Box(=外部の者にはわからない)的な神秘性に惹かれる。

第22回冬季オリンピックパラリンピック2014年2月7日~23日)の開催地ソチはロシア最南西の保養地。華やかな各種競技がTVで伝わってきたが、それを囲む地政の解説は少なかった。「テロの可能性」が言われたが、それは異文化、異人種が交じり合ってるわけで、逆にその多様性を魅力と前向きに捕えることもできる。(ロシアによる『クリミヤ併合は、その直後、3月18日)



ソチの南にあるカフカス(露語)山脈とはCaucasus、つまりコーカサス。ここのスターリンの生地グルジアは関取「黒海」の出身国でもある。Georgiaジョージア、米国の州名と同じだ。グルジア南オセチアを巡り、ロシアとは国交断絶中だが、ソチ冬季五輪に参加、聴衆の喝采を浴びた。コーカサスにあるアゼルバイジャン、その北のチェチェン(ロシア)はイスラム国とこれまた複雑だ。
ソチ(ロシア)から、黒海を北西に巡ると、ウクライナ。そこが舞台の「屋根の上のバイオリン弾きFiddler on the Roof」は日本でも上演されたミュージカル。ユダヤ人村シュテットル(独語Städtchen )で、異文化に馴染んでいく子供らの生き様に戸惑う頑固オヤジの話。一家は追放により、原作ではイスラエルに移住だが、映画ではNYに向かうところで終わる。

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ウクライナの南端、黒海に突き出たクリミヤ半島での戦争(1853-1856)で負傷兵の治療に活躍したのが、英国富豪の娘ナイチンゲール。白衣の天使The Angel in Whiteはまた(夜回りをするので)The Angel of Lampとも言われた。

その半島の先端にあるのがヤルタ。 1945年、第二次世界大戦末期、スターリンルーズベルトチャーチルが、ソ連対日参戦、国際連合設立などを協議、東西冷戦の端緒にもなった。

もともとクリミヤを居住地としていたタタール人(イスラーム教徒)をスターリンが追放したのは、その前年1944年で、以後ロシア人が増えた。

そして2014年の今、クリミア半島を巡って、不幸にも親露派(南東部)と、親欧米派(北西部)の内紛が顕著化。東西対立を彷彿させ、目をはなすことができない。

さて、ウクライナの港湾大都市はオデッサOdessaだ。ユダヤ人芸術家を輩出したイディッシュ文化の中心だったが、多くは海外に出て今や小数派だ。

ここで、ODESSAということから、話は突然ドイツに飛ぶ。
F. フォーサイス(英国人)の「ODESSA File」は、ドイツ語、Organisation (組織) der ehemaligen(以前の) SS(ナチス親衛隊) Angehörigen(メンバー)の略。
元ナチ親衛隊の海外逃亡を支援した組織活動の国際諜報フィクションだが、その綿密な取材は真に迫る。

オデッサ市との直接の関連はないわけだが、登場するサイモン・ウイゼンタールは実在人物。ウクライナの生まれでナチ収容所を生き延びたユダヤ人。いわゆる「ナチ追及」をしてきた米ロサンジェルスの人権センターにその名を残す。「ガス室はなかった」としたマルコポーロ誌を廃刊に追い込んだが、広告主に撤退を要求するという「強硬ビジネス戦術」だった。

国際舞台におけるユダヤ(人)の活躍は言を待たないが、その姿勢を知るという意味で、今読み返してもこの「ODESSA File」は迫力に満ちた「参考書」ではある。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2014年4月号)より転載・加筆。

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