fat lady
Cooper Union
2020 年 11月3日(火)の POTUS 米大統領 選挙。
以後、何やら混迷の様子を伝える某紙の見出し はこうだ。
“The game is never over until the fat lady sings.”
太った女性が歌う? 調べると、例えばワーグナー の長編オペラ「指環(Ring) シリーズ」。その最後にソプラノ歌手が20 分間とうとうと歌い、ようやく幕が閉じる。確かに体力勝負だ。「彼女が歌い終わるまでゲームは決着がつかない」とは何とも意味深な表現だ。
今回のPOTUS戦の重要論点のひとつはBlack Lives Matter(BLM)。アフリカ系アメリカ人 に対する人種差別抗議運動。そこで、想起するのは A. リンカーン 大統領の「奴隷解放 」。その大統領候補としての重要な出発点は1860 年2月 27 日の有名な「クーパー・ユニオン演説」だった。
参照:Pin on a little history
場所はNYC マンハッタン、ワシントン広場の近くにある4年制大学 クーパー・ユニオン(現存)の講堂Great Hall。同校創立者 のクーパー(Peter Cooper、1791−1883)は NYC で生まれたが、学校教育は受けられず、幼い頃から丁稚奉公に。だが、多くの特許を取得し、その収入で事業を起こして大成功を収め、当時の米国で一二を争う富豪になった。そして、「教育は人種や宗教、社会的地位とは関係なく、資格のある者が無料で受けられるべき」と主張した。
私事ながら筆者次女が同校に入学許可され(Art 専攻)、何と4年間の授業料は全額免除(奨学金 )だった。米国籍を有しないアジアの子女の才能を認めて無料とする、その寛容さに驚いたものだ。
奴隷制 を制限することを繰り返し求めたリンカーン のクーパー・ユニオン演説は圧倒的支持を受け、ここを原点として結果5月18 日、シカゴで開催された共和党 全国大会での3回目の投票でリンカーン は候補に選ばれた。そして、いよいよ1860 年 11 月6日(火)の本選挙。リンカーン は民主党 候補を破り、共和党 (別名で GOP:Grand Old Party と呼ばれる)としては初めてとなるアメリカ合衆国 第16 代大統領となった。
翌 1861年 3月4日の就任式、リンカーン は(南部の市民向けを意識して)大統領就任演説をこう締めくくった。
“We are not enemies, but friends. We must not be enemies. Though passion may have strained, it must not break our bonds of affection. (略)”
(私たちは敵同士ではありません、友人です。敵対してはなりません。 たとえ感情が高ぶることがあっても、愛情の絆を断ち切るべきではないのです)
が、何とその後、南部はリンカーン の大統領就任を受け入れず、「南北戦争 American Civil War(1861−1865)」となった。奴隷制 存続を主張する南部 11 州は「アメリカ連合国 Confederate States of America」(CSA)を結成して、北部 23 州との間で戦争となった。
何やら暗示的だが、さあ、いよいよ新年1月20 日、大統領就任式。 「体格のよい女神」の世界調和への託宣を期待したい。
ところで、旧臘2020年12月29日。ボストンにあるリンカーン 像が撤去された(共同・写真AP)。それはデモ隊や過激派などによる暴力的撤去ではなく、同市議会での決議によるものとのこと。
確かに、このEMANCIPATION(解放)と銘打ったリンカーン 立像には半裸の黒人奴隷が跪(ひざまず)いている。
「人間は平等」という精神からすればこれまた暗示的であり、世界レベルで「人権問題」を考えるべき時代になりつつある。
JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 85」 より転載・加筆