浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第114回】Lay Down Your Arms 〜 A・ノーベルの意志

 

2018年11月1日

 

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筆者愛用のSuttner夫人の襟章

ノーベル賞の原点・現場を知るべく、7月、オスロストックホルム訪問を決行した。晴れ渡った空と海。高めの温度もカラっとして爽快だ。古い町並み、由緒ある建造物。手入れが行き届き、現代にたくましく存在している。

就中(なかんずく)、平和賞が授賞されるオスロ。お目当ては長年のメル友、Fredrik Heffermehl 氏。市民団体「Lay Down Your Arms 武器を捨てよ」の主宰者だ。これは1905年、女性として初めて同賞授賞の Berthavon Suttner 夫人 (オーストリア) の著書に由来する。“Nobel Peace Prize Watch”というサイトを運営し、平和賞が果たしてA. Nobel の will意志・遺言に合致しているかを長年「監視」している。

が、当人は何と1ヵ月を超えるバカンスに出ていて、面談はかなわなかった。極寒の長い同地にあって、7月の明るい日々。仕事なんかやってられるか、というのが国民の姿勢らしく、働き方・人生観についての彼我の差に驚いた。聞けば、週40時間労働制と、制度自体は日本と違いはないが、実際には週平均33時間労働。残業の概念がない上、最低5週間の有給休暇取得が法律で義務付けられている由。なるほどー。

さて、毎年10月最初の週は「ノーベル週間」とも呼ばれ、文学 Literature、物理 Physics、 化学 Chemistry医学生Physiology or Medicine、経済 Economic Sciences そして平和 Peace の6つの部門のノーベル賞が発表される。中で、しばしば論議になるのはやはり「平和賞」。ことの性質上、いきおい政治的になりがちだからだ。

平和賞についてのノーベルの遺志は3点、諸国間の友好 fraternity between nations常備軍の廃止または削減 abolition or reduction of standing armies、平和会議の開催・推進 holding and promotion of peace congresses。これらについて「最大または最善の活動をした人物」とある。現在では、授賞の対象は「個人」に加え「団体」も対象である。つまり、近年、日本で市民運動としてメディアに盛んに取り上げられた「(憲法9条を70年間維持してきた)日本国民に」運動はルール上不適格である。

確かに、人権のための戦いや救貧活動は尊い。が、それはA・ノーベルの本来の will 遺言・意志ではないというもの。その厳しい同氏も昨年のICAN (核兵器廃絶キャンペーン) についてはもろ手を挙げての賛意を示した。

さて、本年の「性的虐待」に抗する Denis Mukwege (コンゴ)、Nadia Murad (イラク)両氏への授賞については、「人権問題はノーベル の遺志の外」という異見も少なくない。これに対しHeffermehl 氏は戦場・紛争における性的唐待防止 = 武装解除、と次のような見解を筆者に伝えてきた。

"..... the acknowledgement of rape as a weapon with the fact that disarmament is the probably most distinctive concept in Nobel's description of the prize for the champions of peace” (平和のチャンピオンに贈られる賞についてノーベルが語った中でも、武装解除は最も卓越したコンセプトなのだという事実と、武器としての性的虐待(の関連)が認知されたこと……)。つまり、「ノーベルの本来の遺志に添った授賞」と解説。そして、この点は、12月10日 (ノーベルの誕生日) の授賞式において、強調されねばならない、と。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グローバル経営:Global Business English File 74」より転載・加筆。