浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第256回】 文化(文明でなく)の衝突 ― 勝てない戦い

寺子屋コーランを学ぶ (サウジアラビア)

2005年9月15日 記 (貿易研修センター World Forum)

 

   一体、文明が衝突するのだろうか?実は衝突するのは文化であり、この点を見極 めてないブッシュ政権の「武力戦略」が中東問題を泥沼化した。

 2001年の9・11事件後、クローズアップされた「イスラム」文化。 碩学黑田寿男教授は「イスラムの理解は難しい。一番良いのはその地で生活し、 人々に触れること」と吐露している。 筆者は、1971年IISTを出てから、商社の石油部に配属になり、以来駐在を含めて、 ⻑く中東ビジネスに携わり、イスラム文化を体感した。そして、後年転職後、もう 一つのテロ現場ニューヨークと往復する者として、ブッシュ政権の武力による中東 強硬策、及びそれに追随しての自衛隊派兵に大いなる疑問をもってきた。

文化=宗教の衝突:

 一体、「文明の衝突論」がことの本質を見誤らせてるのではないか、とずっと思い続けている。 政治学ハンチントン教授のイスラム敵視的な視点も含め、単純明快で素晴らしいアメリカ(人)気質が物質論に立つ「武力征服」という形で裏目に出て、いよいよ泥沼に突っ込んでいったには違いない。

 歴史作家司馬遼太郎は、文明を「普遍的」とし、文化は「むしろ不合理で非普遍的なもの」と定義し、

  「日本でいうと婦人がふすまをあけるとき、両膝をつき両手で開けるようなもの。立って開けてもいい、という合理主義はここでは成立しない。 不合理さこそ文化の発光物質ゆえ、美しく、安堵感をもたらす」としている。(「アメリカ素描」:読売新聞社

広辞苑によれば「文化とは人間の生活上の内面的、精神的なもの」であり、生まれてこのかた、否、先祖代々引き継がれ「肌に擦り込まれ」、基本的に変えようも ない心の状態であり、その典型的は宗教と言える。  卑近な例で、お袋の味、故郷(ふるさと)のなまり、お祭り、お宮参り、法事、 四季折々の行事、冠婚葬祭。これらを他者が腕力をもって変えることができるであ ろうか?

コーラン=絶対生活訓:

 世界12億のイスラム教徒にとって、生活の絶対訓はアラー神の言葉「コーラン」 である。彼らはなぜ豚肉を口にせず、酒を飲まないか?「コーランに書いてあるか ら」。それ以上でもそれ以下でもない。 (以下 井筒俊彦訳、岩波新書)

   ・5章 食卓 4節「汝(なんじ)らが食べてはならぬものは、死獣の肉、血、豚肉」

 ・5章 食卓 92節 「酒と賭矢と偶像神と占い矢とはサタンの技」

  これらの掟を「アメリカ文化」(カッコ内)と対比して見ると、いかにアラー神 の教えに背いているかが理解できる:

金利禁止(vs マネーゲーム、デリバティ ブ)、

・偶像禁止(vs ハリウッド、テレビ、アイドル)、

・男性優位(vs ウーマンリ ブ、男女同権)、

・同性愛の禁止(vs ゲイ運動、同性結婚)等々――。

問題はこの「堕落文化が自国圏に留まらず、イスラム社会へ「侵入」してることで あり、取りもなおさず、異文化挑戦と映る。

・2章 牝牛 186節:「汝らに戦いを挑む者があれば、アラーの道のために 堂々とこれを迎え撃て」

これが貧困という絶望感と合い俟って9・11事件となったと解すべきであろう。

難しい中東主化:

 9・11事件直後にブッシュ大統領が口走った「十字軍」とはキリスト教徒によるイスラム教徒の迫害の歴史だし、同じく、イラク侵攻演説で正当化(=聖戦化)の ために引用した「Millennium」(千年統治)は、キリストを神と認めないイスラム では認められない。イスラム諸国では赤十字を無条件には受け入れず、赤新月が使 われている。又、「(⻄洋型)⺠主化」の典型は指導者を選ぶ選挙制度であろう が、男女同権がない文化の中で、国⺠レベルで行われることはない。

・3章 女38(34)節:「アッラーは元々男と(女)の間には優劣をおつけ になった」

そして、あの世における楽園を説くコーランを信じる庶⺠は打たれ強い。

・2章 牝牛23節:「信仰を抱き、かつ善行をなす人々。 彼らはやがてせんせんと流れる河水流れる緑園に赴くであろう」

以上、9・11時件以後の一連のアメリカ(⻄側)の中東作戦は、「異文化=異宗教」 への侵略であり、歴史が証明するとおり、宗教戦争に勝負はない。「勝てない戦 い」に派兵することに妥当性はない。

南部の祭りデモ(男、男、男ー)

 

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