浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第235回】 コレポンの鏡 ~ 「?」⇔「!」

 

 

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Les Miserableのポスター

世界を混乱させるコロナパニック。10月に入っても収まりそうにない。

多くの「被害者」が出て社会問題になってるが、芸術の世界も例外ではない。

所はNYCマンハッタン、約40の劇場が集まるブロードウェー。コロナ前、国内外から週25万人が訪れるなどニューヨークの観光業の柱だったが、昨春の感染爆発から1年半もの間、公演を休止した。

そこでのミュージカル公演が解禁になったとの朗報が入った。かと思うとまた禁止、とニュースが飛び交い、やきもき(何故か英口語ではstewという)させられる。

興味深いのはレ・ミゼラブルLes Misérables 「悲惨な人々」「哀れな人々」。原作は言わずとしれたフランスのビクトル・ユーゴ(Victor-Marie Hugo 、1802 - 1885)の「大河ドラマ」だ。 1本のパンを盗んだことをきっかけに、結果として19年間もの監獄生活を送ることになったジャン・ヴァルジャンの生涯「ああ、無常」は子供心にも哀しく残っている。当時のフランスを取り巻く社会情勢や民衆の生活も、物語の背景として詳しく記載されている。

その、ミュージカル版は1985年ロンドンに初演されてから、世界各国で公演されている大人気作品だ。ブロードウェイでは1987年にインペリアル劇場で開幕し、丁度筆者の赴任時とあって、その公演に感動したのは忘れられない。

原作レ・ミゼラブル』は中断されていたが1862年完成してベルギーより出版され、大反響を巻き起こした。「レ・ミゼラブル」の成功は、彼に莫大な収入をもたらした 。

が、この「世界的に知られる」物語にも、創成期の逸話がある。『レ・ミゼラブル』が出版された直後、海外旅行に出かけたユーゴーはその売れ行きが心配でStew(やきもき)し、出版社に一文字「?」と書いただけの手紙を送った。これに対し、出版社から「!」とだけ書かれた返信が届いた。「上々の売れ行きです!」というわけである。事実、数日で完売・売切れの状態であったという。これは世界で最も短い手紙として『ギネス世界記録』に掲載されている由。

この短い「?⇔!」のやりとりが意を尽くした、コレポンの原点だ。

今は昔、インターネットなど影も形もなかった時代のビジネス文書のやり取り(コレポン=Correspondence)は、勿論手紙Post。

時代が進み電報Telegramm、そして石油担当商社マンとしての中東駐在時代はTelexへと「発展」していった。長期出張では滞在先のホテルの電信室に籠り、Punch Card(テープにさん孔し、それを機械が読み取る)であった。

すべて懐かしいことだが、実はそこに「コミュニケーションの原点」がある。即ち、如何に短くして要点を相手に伝えるか、という究極の課題だ。それは即ち「電報代」「通信代」が有料ゆえ下手をすると莫大な金額になるからだ。 

米国の作家Mark Twain(1835 – 1910)は“I didn't have time to write a short letter, so I wrote a long one instead.”と発出した由。もう少し時間があったら(手紙を)もう少し短くできたのにー。けだし名言だ。 

日本にもある。「一筆啓上、火の用心。オセン泣かすな、馬肥やせ」。徳川に仕えた武将本多重次天正3年(1575)の長篠の戦いの陣中から妻にあてて書いた手紙だ。

通信が無料(格安)であるがゆえに、コレポンが長くなり交渉の焦点がぼけるということでは商談はうまく行かない。商業簿記ことに損益計算書Profit/Losの明示は最下段にあり、いわゆるWhat is the bottom line? いくら利益が出たのか(或いは損がでたのか)? ⇒ いやあ、凄い。売れ行き好調、大成功です!としたいものだ。

 

(一社)日本在外企業協会「月刊グローバル経営」2021年11月号より転載加筆

 

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