浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第223回】 ビン・ラーデン水葬から「護憲法9条」へ(前)  

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ビンラーデン殺害を報じる(産経、2011年5月3日号)


 (2008年1月22日付け過去記事を基に再製) 

オバマ大統領の指示のもと、ビンラーデンを「水葬」にした米部隊への疑問を記した(2011年5月2日のこと)。

【第222回】 ビンラーデンを「水葬」にした愚挙 - 浜地道雄の「異目異耳」

異文化の理解欠如からくる軍事行動への強い懸念だ。 

ここに言及したブッシュ前大統領の中東(イスラム文化)への理解不足について、筆者は疑念を振り払えない。これに先立つ2011年4月、日本経済新聞朝刊の「私の履歴書」の同前大統領の回顧は示唆的であった。大量破壊兵器に関するCIAの間違った情報でイラク攻撃をしたことを悔やんでいる。

素晴らしいアメリカ (筆者の男女四人の子供は、小中高は日本で。大学はNYCでお世話になった)。   しかし、その陰の部分も認識しなければいけない。 

筆者としては、この国際的重要問題。「事実は何か?」という視点で改めて検証をすべきと考える。これらは筆者が憲法9条を「金科玉条」と主張する、根拠である。


その根にある「ブッシュ政権には現場感覚・現場情報が不足しているのではないか」という思いは、2001年1月、放送大学(TV)における特別解説「激動するイラク情勢を読み解く」で改めて強くした。

講師の高橋和夫教授の現場感に溢れた報告。 例えば、ブッシュ(父)元大統領の要請にもとづき、イラク・イラン戦争の真っ只中の1983年、当時民間人だったラムズフェルド(元)米国防長官が自らサダムフセイン元大統領と会談。翌1984年11月には国交回復にまで持ち込んでいる。アメリカはイラクにテコ入れしていたのだ。

それから20年後の2003年3月19日には空爆を開始。思えば、筆者は22日に「アメリカの間違いへの懸念」を産経新聞に寄稿した。

【第212回】 「イラク侵略満三年」―市民記者の主張 - 浜地道雄の「異目異耳」

その後、征服者の立場で、捕虜であるフセイン大統領と面会したラムズフェルド氏であったが、米中間選挙の結果を受けて、2006年11月9日辞任に追い込まれている。 

さて、高橋教授とともに報告・論議をしたのは酒井啓子東京外国語大学教授。その自己紹介の下記の言葉は傾聴に値する。

【特に私の専門は現代中東政治なので、「戦争」や「テロ」、「非民主的」といった表面的なイメージがつきまといます。その「世間の思い込み」の強さといったら! 理解したい相手の人たちが何を語ろうとしているのか、訴えようとしているのか、その声を聞き届けることの重要性を、改めて強調したい。言葉が回避できる紛争というのはあるのです】 

1950年代末に、バーキル・サドルを思想的中核として成立した、イラク国内のシーア派社会における最初のイスラーム主義政党であるダアワ党。そのダアワ党出身者を中心に分派したイスラム革命最高評議会(SCIR)はイランに亡命したイスラーム主義政治家やウラマーが1982年にイランで設立した。

  これらの実に複雑な系譜は、中東(イラク)を語るときに欠かせないキーワードであり、放送大学講座では詳しく解説された。ダアワ党とSCIRIの、歴史的形成過程、構成実体、支持層等々については、 酒井啓子氏の「イラクにおけるシーア派イスラーム運動の展開」に詳しい。

そして、その酒井氏は米国(ブッシュ政権)における「言葉」の問題、つまり、現場を理解する力の不足を指摘した。ブッシュ政権に現状を伝える「アラビア語」は実は亡命者に依存しすぎている、と。従い、バイヤスのかかった翻訳・通訳になる、というものである。 

これを聞いて、若き畏友小田康之氏の記事を思い出した。慧眼である。(2001年9月27日、つまり、9・11事件の直後、サンフランシスコにて): 

【事件直後のFBI長官の記者会見を見ていて,筆者は少々驚いた。アラビア語ペルシャ語の話者のボランティアを求めると呼びかけたからである。ボランティアであるから,その扱う情報の内容はたかがしれているであろう。それにしても,この事態に及んでわざわざ公けに呼びかけなければならないほどアラビア語ペルシャ語で情報解析のできる人材がアメリカの政府機関にいないのか】

   - 中略 -

愛国心が国中に充満している。ここまで国中が一つの方向に向いたアメリカを筆者は見たことがない。 このきわめて微妙な政策決定と遂行の過程に,マクナマラベトナム戦争の誤りとして指摘したような無知が今回は生じていないであろうか。当該地域や組織を知悉した専門家も力を発揮し、あるいは指導者がそれら専門家にも耳を傾けた上で政策決定がなされているであろうか。 翻るあまたの星条旗を目にしながら,そのような不安を禁じ得ない】

 

今や、筆者(浜地)の周辺の多くのアメリカ人知人、友人、パートナーもブッシュ政権の中東政策には疑問をもっており、今後も対テロ戦争の原点の検証を行うことが、日米関係においても重要であると考え、この問題を取り上げていきたい。

 

ビンラーデン水葬から「護憲法9条」へ(後)に続くーー。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/09/05/110535