浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第6回】海賊にみる「RとL」考

 

2009年02月01日

 

f:id:TBE03660:20201209202139p:plain

1881年のプログラム表紙

専門学者によれば、言葉にはphoneme(音素=母音と子音の数)があり、英語ではだいたい44、日本語では28だと言われている。例えば、英語では/r/と/l/は違う子音となり、2つの違う音素だと区別されるが、日本語では区別がなく、音素は一つ。

そこに我々にとっては鬼門の「R・L問題」の根がある。「wrong=悪い、long=長い」や、主食riceとlice(しらみ)の区別がつかない。

他にも、要注意の「お馴染み」はいくつかある。「rink=スケートリンク、link=連結」。「Rome=ローマ、loam=(関東)ローム層」。「roan=羊皮、loan=貸付」。「play=遊ぶ、 pray=祈る」。「rank=列、lank=細い」。「loud=騒がしい、road=道、load=負荷、lord=君主」。「right=右、 light=光」。

難しいのは、「read=読む、lead=導く・鉛、led=leadの過去分詞、red=赤」。と、こういう「用語集」をグロサリーというから、近所にあるグロサリー(雑貨屋)と同じかと思ったら、何と前者はglossary 後者はgrocery!

NY郊外のフリー・マーケットで、看板にFlea Marketと書いてあった。"Flea"を辞書を引くと「蚤(のみ)」。てっきりFree Market=「自由市場」と思っていたのが、実は文字通り「蚤の市」の語原だった。

さて、ここで(いわゆる)NativeがRとLをそんなにきちんと区別できるのか?と意地悪く疑ってみる。9・11以後もてはやされてる 『文明の衝突』((ハンチントン)の原題はClash of Civilizationsである。そこで辞書を引くと、確かに「Clash=ガチャン、衝突」とある。同時にCrashを引くとこれまた「ガチャン、衝突」とある。ついでにCrushを引くとこれまた「砕く、粉砕」とある。これら擬声語onomatopoeiaの「ガチャン」などではR、Lどっちにも聞こえるということになる。

事実、イギリス人がLとRを間違える、という例もある。今は昔。サウディアラビアの首都リヤド(砂漠の真ん中)に 駐在していたころの話である。スーパーの掲示板にあった「オペラ団員募集」の広告に何ごとならんと行ってみたところ、そこはイタリアの土木会社の体育館であった。酒もなく、楽しみの少ない灼熱の地で、退屈な時を音楽好きが集まってオペラをやろうというのだから、彼らの逞しさに感心したものである。出し物は「Pirates of Penzance(ペンザンスの海賊)」。音楽好きの私たち夫婦も団員に応募し、それぞれ海賊、村娘として合唱の練習に励んだ楽しい思い出である。

あらすじは、海賊団に預けられた少年が、契約上21歳の誕生日に独立することになっているが、実はうるう年(leap year)の2月29日生まれゆえ、「釈放」はずっと先と知って騒動がおきるという他愛のないものだが、そこで忘れられないことがある。少年の両親は実はPilot(船長)の見習いをさせたかったのが、姥(うば)がPirate(海賊)の訓練に出した、というのだ。つまり、ここでは純粋なイギリス人(姥)がLをRに聞き違えたということだ。筆者は内心「日本人だけじゃないんだ」とほくそえんだ。

因みに、映画 『プリティー・ウーマン』ではじめてオペラ(『椿姫』)を見たヴィヴィアン (ジュリア・ロバーツ)は「感動してモラしそう(almost Pee my Pants)だったわ」と言う。「What?」と驚く老婦人に、エドワード(リチャード・ギア)が「彼女は"ペンザンス(P)の海賊(P)"より良いと言ったんですよ」と言うシーンがある。

ビジネスではPirateはコンピュータソフトなどのいわゆる海賊版をも指す。だがPilateとなるとピラト(キリストを処刑したローマ総督)となるからご注意。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」(2007年一月号、第一回)より転載・加筆

■ 関連サイト
・「普段から英語を使おうとする姿勢」- パックンの名言