浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第124回】GIGA構想に期待する「世界と共に」

 

2020年11月1日

 

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安河内哲也氏の熱弁

 11月9日。今は昔となったが、1989年のこの日にベルリンの壁が崩れた。この年、ベルリンで行われた日本の政府機関主催「日本情報会議」に出席した。壁が崩れる2週間前だったのだが、現場にいる誰も直後の大事件を予知してなかった。

ベルリンでは東側にあった森鴎外記念館を訪れた静かな興奮も忘れられない。軍医として留学中の鴎外がNachricht(独:敵情を報知する。英:Information)を翻訳した「情報」という言葉の深さも知った。鴎外は「状報(データ)に付加価値」と説明している。

参照:鴎外に学ぶInformation

さて、件の「日本情報会議」での主題のひとつは何と「インターネット」。ビジネス情報(コンテンツ)をデータベース化して相互交換しようというものであった。しかし、この構想は実現することはなく、米国による同名のインターネットに席巻されてしまった。これまた予想しなかったと白状せねばならない。

こうして時代は進み今や「グローバル」「インターネット万能」時代。教育界においても E-Learning が喧伝されている。そんな折、コロナ禍で久しく実現していなかった real の「教育総合展EDIX」(9月16-18日、於:幕張)に参加した。会場で例年とは異なることに気付いた。そこかしこに、「GIGA」とある。ウーン、ギガ?10億を意味する国際単位のことか?なぜここに?調べてみるとGIGAとはGlobal Innovation Gateway for All、すなわち「子どもたち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現のこと」だった。つまり、1人1台の端末普及だ。IoT、Big Data、AI、Roboticsなどをはじめとする技術革新の進展ということで、「デジタル庁」の創設(予定)にも直結する。

Globalというからには、必須なのは「コンテンツ」であるし「言葉=英語」に違いない。だが、残念ながら、そこでの主眼は「端末・線」ビジネスであり、コンテンツではなかった。

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プレゼンより(同氏提供)

 と、少々複雑な思いで、同時開催のセミナーを聴講。やはりグローバルがキーワードであった。安西祐一郎氏(元慶應義塾長)は「大学教育とAI戦略」で国際提携を強調。矢口悦子東洋大学長は就任直後に勃発したコロナ禍に戸惑いながらも、「大学の在り方」でグローバル化への決意が変わらぬことを表明した。

そして若き畏友・安河内哲也氏(カリスマ英語講師)は、「机にかじりついてテキスト通りに」から脱皮して、「読むR、書くW」にプラスして、「聞くL、話すS」もネットをベースにと、様変わりの様子を熱っぽく訴える。そして同氏のプレゼンで特に印象的だったのは「世界と共に生きる視点をもて!」との力説。

そこで、膝を打ちつつ思い出すのは、頭記、鴎外の唱えた「情報」。Information/Nachrichtとは「情況を報(しら)せる」ことであり、また「情に報いる」ことでもある。

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 84」より転載・加筆