浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第117回】「上海マグレブ」に学ぶ

 

2019年6月1日

 

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Maglev

国際都市上海、生まれ故郷。と言っても4歳まででの引揚げだから確たる記憶はない。が、両親の昔話やわずかに残された写真から格別の思いがある。某年、親父が余命短しと医者から告げられ、最後の親孝行と家族旅行 を試みた。折しも「反日運動」が報ぜられたが、街ではまったくそんな気配もなく満喫した。

そんなノスタルジーとは逆に印象に残って いるのが、その前年に運行開始した世界で初めて (今でも唯一) という高速列車だった。時速431キロ以上で、浦東国際空港と市街側にある龍陽路駅 (竜陽路) までの約30kmを8分で結ぶ。ドイツ製と聞いた。

そして昨年、久しぶりに上海を視察で訪問。感心したのは英語熱。「いやあ、すごい、 日本はかなわない」という印象である。ところが、あの思い出の「高速乗り物」のこと、 “Linear Motor Car” リニア・モーター・カー と何人かに聞いたが皆さんピンとこない。

確かに linear には「直線」以外の意味はないし、単語を見ても少々ズレが生じる。car とは小型乗用車を指し、列車を指す語ではな い。motor car を辞書で引けば、英語では自動車、乗用車。米語では (工事用の) 動力付き自走車、とあり超高速列車を指すわけではない。要するに「和製英語」だったのだ。

とまれ、駅で Maglev という案内標識に気が付いた。マグレブ? あの北アフリカイスラム圏のことか? アラビア語マグレブ Maghreb とは「日が没すること、没するところ = 西方」だ (反対語 Mashriq は「日が昇るところ = 東方」)。

しかし、Maglev と Maghreb では「lとr」 そして「vとb」の違いがある。

実は、Maglev とは Magnetic (電磁による) Levitation (空中に浮かぶ)のこと。なるほど、中国語で「磁浮」とある。 車両を浮かせて、レール との摩擦をなくして文字通り空中を高速で飛んで いくという姿だ。

上海 Maglev超電導を利用して車両を8〜12mm浮上させる。他方、2027年に開業予定の日本の「中央新幹線」では100mm 浮上させ、最高時速 505キロで東京〜名古屋の286kmを40分で運行する。それによって、心配される地震による軌道の歪みや小さな落下物などによる接触事故にも対応し、かつ、コスト面では、導入、運用とも低く抑えられる由。だが、それだけ浮かせるのに大容量の磁気が発生するとのこと。この中央新幹線、日本を代表する交通システムであり、意味不明の和製英語ではない良いネーミングはないものであろうか。

「名は体を表す」“Names and natures do often agree” と言うが、JR東海の資料にも「超電導  Superconducting Maglev」とある。

JOEA 「月刊グローバル経営:Global Business English File 77」より転載・加筆