浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第147回】9・11に思う ~ 来る米大統領選挙にむけて

 

2012年9月11日

 

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ANN NEWSより

昨2011年、9・11の10周年にあたって、憲法第9条擁護の視点から、「日米同盟(即ち、軍事同盟)の深化」についての恐れを縷々記した。

9・11、10周年に憂う「日米同盟(=軍事)深化」論 - JanJanBlog

 そして、また、9月11日が巡ってきた。

夏季オリンピックが開催される閏年、今年は、米大統領選挙の年だ。それは11月の最初の火曜日と決まってるから、今年は11月6日。あと2ヶ月で、世界の情勢に直接影響する米大統領が決まり、就任は来年2013年、1月20日だ。

今年1月に始まった予備備選挙から、それぞれの党大会が終了し(8月27日~30日共和党、9月3日~6日民主党)、共和党はウィラード・ミット・ロムニーWillard Mitt Romney(元)マサチュセッツ州知事民主党は現職のバラク・フセイン・オバマ・ジュニアBarack Hussein Obama, Jr. 大統領を選出した。

現時点で、米世論調査オバマ若干優勢とのことだが、折しも、元NHKワシントン支局長で著名な外交評論家日高義樹氏は近著で「ロムニー大統領で日米新時代へ」と明確に打ち出し、全編「オバマの失敗」との対比で、「ロムニー勝利」を強い調子で予測している。

しかし、筆者には違和感があり、過去記事を引用しながら、オバマ再選という「希望的観測」を下記する。

まず、外交問題、国際地政をみる時に日本(人)にとってややもすれば稀薄になりがちなのが宗教(文化)認識だが、ここでロムニー候補がモルモン教徒であるということのインパクトは小さくない。が、日高氏は同書のなかで、若干同教を解説の上で、「(ロムニー候補が)モルモン教であることは政治的に障害にならない」と言明している。

しかし、例えば、1961年のJFケネディー以外のカトリック教徒の選出は空前絶後だし、2000年の大統領選の民主党アル・ゴア大統領候補の「伴奏者」たる副大統領候補だったリーバマンは敬虔なユダヤ教徒だった。その際の米国内における論争(及び国民心理)は、日本には殆ど伝わらなかった。

(*1963年、JFケネディー大統領暗殺時に、ジョンソン副大統領が昇格したごとく、米国憲法では大統領に万一のことがあれば直ちに副大統領が大統領に昇格する。もしゴア大統領が誕生し、それに万一があった時は自動的にユダヤ人大統領の可能性があった。)

http://janjan.voicejapan.org/world/0806/0806210212/1.php 副大統領候補-見落とせない米大統領選の視点

モルモン経を聖典とする1830年創立のこの教団、末日聖徒イエス・キリスト協会は伝統的な立場にあるカトリックプロテスタント正教会では公式サイトにて一致して異端と表明しており、新宗教に分類されている。一夫多妻制(1890年、ユタを準州から州に昇格と引き換えに廃止されたとされる)、 黒人差別(1978年、黒人にも神権を授与するとして廃止)という点も特異な陰を落としていることは、否めない。

* 因みに1872年2月、岩倉具視使節団はサンフランシスコからワシントンDCへの鉄道横断の途次、モルモン教の本山のあるソルトレーク・シティーで、2代目大管長ヤングの一夫多妻ぶりを見聞し、驚いている。

但し、同教信者は、アルコール、麻薬は勿論、コーヒー、紅茶など刺激物は避け、ポルノを忌み嫌う、清い生活を目指しているし、筆者にはモルモン教徒であるまじめで優秀なビジネスマンの知己は少なくない。

さて、この個人の信条・哲学というタッチーな宗教信念・信仰心という問題とは別に、ロムニー候補の主張についての筆者の懸念は、緊縮財政、社会保障の縮小、富裕層減税反対といった、つまり「格差」を認める政策だ。

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加えて、紛争する中東問題。

オバマ大統領ですら、その(異)文化の理解の不足、不寛容がめだった。そして、そのオバマ政策については「生ぬるい」とするのがロムニー候補である。オバマ大統領は巨額債務問題で国防費を大幅削減したが、ロムニー候補は国防予算の300億ドル増や現役兵士の10万人増を外交方針に掲げている。

外交については、対中東を中心に、ブッシュ前政権(共和党)が武力政策で収めようとして拡大した混迷事態をChangeするはずだったオバマ大統領ですら、アフガン侵攻という愚挙を犯した。

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ロムニー候補はこれらオバマ大統領の対外政策を「弱気」と非難しており、「強い米国」という価値観を対外的に押し出し、強硬な姿勢を取ることでオバマ候補との違いを明確にしようとしている。加えて言えば、8月にロムニ―大統領候補に「伴走者」=副大統領候補に指名されたポール・ライアン下院予算委員長は、それ以上に「強硬派」として知られる。

問題は選挙当日までに、中東情勢が悪化する可能性だ。例えば、もし、産油地帯で紛争がおき、ホルムズ海峡を通過する原油情勢が脅かされるという事態が発生した時。即ちこれへの対抗ということで米国内の「愛国心」が高まった時には、選挙民は容易にロムニー強硬路線の支持に回るであろう。

米国においては大統領の第一期目の中間選挙にあっては、おおむね一期目が「期待外れ」ということで与党の支持率がさがる。が、9・11事件の翌年、2002年の中間選挙時には「愛国心」から、例外的に共和党が両院で議席を伸ばした。あの熱狂ぶり、異様さは忘れることができない。

日高氏は同書を「天変地異でもおきない限り、ロムニーが大統領選を制す」と結んでいる。同書には重要問題である中東情勢に触れている個所がみられないが、それをもじって言えば、筆者の見解は真逆だ。「ホルムズ(海峡)情勢、中東情勢に異変が無い限り、オバマ再選」だ。

4年前の、米大統領選挙の際、日高氏は「マケイン・ペイリンが大差で勝つ」と先見した。

が、結果的にこの予想は外れ、オバマ大統領が当選した。

http://janjan.voicejapan.org/world/0811/0811010635/1.php いよいよ米大統領選 NO 「マケイン・ペイリンTicket」

オバマ大統領のCHANGE(4年前の標語)から、今回の標語FORWARD(前進)を信じたい。

「武力で(異)文化は征服できない」というのが筆者の長年の強い主張である。

http://janjan.voicejapan.org/world/0603/0603211138/1.php 「イラク侵略満三年」―市民記者の主張