浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第73回】 Speak-up ⇒ Engineering (創造)


2015年05月14日

日本経済新聞社の朝刊連載コラム「私の履歴書」は、各界で名を挙げ功をなした人の赤裸々な個人情報も含む文字通りのPersonal History個人史だし、résumé(仏)或いはいわゆるC.V.ラテン語のCurriculum Vitae人生の物語だ。

本年2月に連載の重久吉弘氏(日揮グループ代表)の「海外開拓:ささげた人生」は、多くの示唆に富む。

中で、「英語」という点で、参考になることが多い。
そこでの一貫したキーワードはエンジニアリングEngineering。エンジンEngineとはラテン語in-(中に)gignere(生じさせる、産む)だ。

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This photo of Albert Memorial is courtesy of TripAdvisor

ロンドンのハイドパークにあるAlbert Memorial Towerは1851年の世界産業博覧会の記念碑だ。その土台のところに4つの大理石像があり、Agriculture、 Commerce、Manufactureと並び、その一つはEngineeringと名付けられている。19世紀の大英帝国を支えた基礎を象徴している。

日揮JGCとは日本揮発油Japan Gasoline。即ちガソリンのこと。JGCは重久氏が入社した1961年には社員500人の国内事業。それが今や約一万人、内半分は外国人というグローバル会社に成長した。

入社二年目の重久青年は、生まれて初めて飛行機に乗り、香港で顧客(Mobil石油)に英語でプレゼン。「LPGタンクを作れるか?」と聞かれて、無知のまま「Why not?」と答えたのがきっかけ。設計部門から散々怒られたが、何とか受注。日揮の海外事業の嚆矢となるものだった。

帰国子女でもなかったその英語力は慶応義塾大学の英文学科での勉強ゆえ、話せたわけではない。英会話学校にて「テキサスなまり」を習ったよし。そこでは「何より外国人と会話する度胸がついた」とのこと。これがだいじだ。

その後、日揮は南米の大型案件を受注。さらに、インドネシア、中東産油国市場に拡大していく。アルジェリアでは、2013年1月の襲撃事件にもめげず、社員がもう一度立ち直るチャンスとして以前にも増して海外プロジェクトに意欲を燃やすようになったよし。

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オバマ米大統領と握手 (写真提供:日揮

とりわけ、「国際ビジネス」に携わる者への励ましは「Speak-Up話しかけ」だ。2010年11月。横浜で開催されたAPEC首脳会議のレセプション会場に米オバマ大統領がいた。誰も話しかけようとしない。重久氏は引きつけられるようにして「Mr. President」と思わず話しかけた。Speak-up!

一瞬きょとんとしてたオバマ大統領はすぐに笑顔になり、仕事の紹介から始め、話は盛り上がったというのだ。同会場では韓国の李明博(当時)大統領とも昔話に花が咲いた。別の機会ではシンガポールリー・クアンユー元首相から中国ビジネスの要諦は「親友をもつこと」とアドバイスを受けたこともあった。こうして多国籍プロジェクトにおけるスピーク・アップの重要性を認識させられた、とのこと。

「履歴書」の終段では、社内エレベータで乗り合わせる多国籍の人たちに「どこの国から?」とSpeak upする。世界の人々は共に生き共に発展してく、と締めくくられている。まさにエンジニアリング=創造である。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2015年4月号)より転載・加筆。

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