浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第1回】世界を変えるTicket


2008年10月01日

英語を楽にマスターする方法などないが、楽しく学ぶ方法はある。一番は何と言っても映画、ことにミュージカルは楽しい。それも古いほうがわかりやすい。その代表のひとつは「踊る大紐育 On the Town (1949)」。24時間の休暇をもらった3人の水兵がマンハッタン見物というストーリー。「ニューヨーク、ニューヨーク」の楽しい歌とともにマンハッタンめぐりができる。

そのひとり(ジーン・ケリー)がポスターで見た「今月のミス地下鉄」に一目ぼれ、彼女を探しまわる。そのポスターには「Miss Turnstiles」とある。Stileとは動物は通れないが人間は通れる踏み段で、そこから「回転式(turn)検札機」のこと。あらかじめ購入したToken(コイン)を入れると、腕木が回転して通過できる。ニューヨークの地下鉄開業は1904年だが、このミュージカルの1949年当時にはあったということがわかる。

日本では切符(Ticket)で、改札駅員がハサミをパチパチしながらまるで神業のようにパンチを入れるのに感心したのはそう遠い昔ではない。欧州などの国によっては、地下鉄・電車では信頼とコストの兼合いで改札はない。但し、時に車内検札があり、不正をやると高額罰金を取られる。

ものの本によるとマンハッタン地下鉄においても、当初は人による改札制度だったのが係員の不正があったので自動にした、というからこのあたり根が深い。つまり「(金銭について)性悪説」の根があるように思える。例えば、買い物や銀行窓口など日本の日常生活では万札が普通に使われるが、米国では違う。20$札が最高額で100$札は余り使われず、出すと驚かれる。「信頼の社会性」問題なのだ。

切符とはすなわちTicketだが、その省略形Tickは「つけ(掛け売り)」の意味。これも米国では多くない。Ticketはだいたい良い意味で比ゆ的に使われ、That's the ticket!というのは「まさにズバリ、おあつらえ向き」という表現。Write one's own ticket.といえば自分で将来の計画・方針を立てるという意味。ただし、交通違反で切られるTicketは恐ろしい。

マンハッタンの地下鉄のTokenも今や電子化してスライド式のカードとなってるし、インターネットの時代、飛行機の切符も今やE-ticketとなった。E-ticketを発音するとエチケットというのはダジャレに近いが、実は興味深い話もある。Ticketとはもともとはフランス語の「札・張り紙」でetiquette(エティクテ)。ベルサイユ宮殿で礼儀作法やマナーを札で指示したということらしい。

Ticketはまた4年に一度、世界の政治・経済に大きな影響を与える。米大統選挙の仕組みはなかなか複雑ながら、二大政党、民主党共和党はそれぞれの大会で「候補者」を選出する。ここで重要なのは投票の対象が大統領候補と副大統領候補の「対」で、(pairとかcoupleとは言わず)Mate, TeamまたはTicketと称され、その組み合わせがよいとDream Ticketと呼ばれる。

Donkeyに象徴される民主党は「オバマ上院議員(47)とバイデン上院議員(65)」。Elephantに象徴される共和党は「マケイン上院議員(72)とペイリン・アラスカ州知事(44)」。11月4日(火)の本選でどちらのTicketが選ばれるかで世界が変わってくる。


JOEA「月刊グローバル経営2008Oct:Global Business English File 20」より転載・加筆

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