浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第287回】 兎年 = Annus Mirabilis へ

Annus (年) Horribilisラテン語)~酷い(ひどい)年だった。

1992年11月24日、英国エリザベス女王が戴冠40周年で、ギルバートホールで行ったスピーチである。同年4月娘が離婚、6月ダイアナ妃の暴露記事の連載、夏には次男が妻と別居。スピーチの4日前、女王の居城ウインザー城が火事。スピーチの後、12月には、チャールズ皇太子がダイアナ妃が別居。

エリザベス女王はこの30年後、2022年9月8日に亡くなったわけだが、振り返るとこの年も中々horribilisだった。

コロナ・パニックは収束の兆しが見えない。2月24日にはロシアがウクライナ侵攻を開始。そして国内では7月8日、安倍晋三(元)首相が射殺され、これを機に「統一教会」問題が沸騰した。

同教会の「非社会性」については、実は今を去ること45年も前の1978年、450ページにも及ぶ「Fraser報告書」が米国議会で公表されている。日本では全くと言っていいほど話題にならなかったが、そこでは米国や日本で政治工作を行ってることも明らかにしている。

その米国、プロテスタント教会の礼拝には米国のキリスト教徒の実に10分の1、約500万人が出席するとも言われる。 また、テレビ伝道televangelismはテレビ媒体を活用し広く伝道活動をする。いずれも信者数の拡大と同時に「金銭的基盤」すなわち献金fund Raisingが重要な要素だ。実際、米国での生活、ビジネス経験からしても、種々の分野で「寄付行為」が浸透している。

これに対し、現下、日本では宗教法人に対する(巨額の)お布施(寄付、献金、集金)が非難の的になっている。「布施」とは、インドなどで用いられた古代語梵語(ぼんご)では「檀那(旦那dana)」と呼び、他人に財物を施すなど、贈与・与えることを指す。

英語のDonation(寄贈)やDonor(寄贈者)とダーナは、同じインド・ヨーロッパ語族の語源を持つ。Donationは「旧約聖書」にも「新約聖書」にもあり、また、イスラム教の「喜捨Zakat」にも直結する。

様々な前世の因縁物語をまとめた仏教経典「ジャータカ」にあるブッダの前世の話は興味深い。菩薩(釈尊)は兎として生まれ変わった。食事の前に布施をしなくてはならないと決めたが、草を食べている自分には捧げるものがない、誰かが食を乞うてきたら、この身をささげようと炎の中に身を投げる。帝釈天はこれを「善」と褒めたたえ、月に送ったとのこと。財産どころか、自分の身命を捧げたのである。

さあ、新年だ。グレゴリオ暦2023年、イスラム暦1444年、ユダヤ暦5783年。そして日本では令和5年。干支(えと)で言えば癸卯(みずのと・う)、卯とはウサギだ。エリザベス女王の“Annus Horribilis” ならぬ“Annus Mirabilis”、素晴らしい年をめざそう!

満月の夜には餅をつくウサギを見上げながら。

 

(一社)在外企業協会「月刊グローバル経営」、2,023年1/2月号 Global Business English File第95回より転載加筆

 

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