浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第67回】 PeaceとPacifist 〜 ビジネスも平和が前提


2014年11月28日

 

f:id:TBE03660:20201206115456j:plain

ノーベル賞

10月10日、ノーベル賞平和賞が発表された。日本の報道では賛同一色だが、元々、「子供たちを救う・人権」はA.ノーベルの遺志には入ってないゆえ、多分に政治的考慮(パキスタン・インド)だと、異論は少なくない。

筆者は、石油担当商社マンとしての中東駐在時以来、「武力で紛争解決はできない」と強く主張してきた。パレスチナイスラエル紛争の根は聖書の時代に遡り、それぞれに言い分があるゆえ、妥協による和平しかないーー、と。
他方、これらの地域においても、こちらが日本人と知ると、人々は一種の親近感をもって接してくれる。そのベースは(日本が)経済大国であり、かつ、「平和的」という印象に違いない。

という実体感から、オスロ側とも連絡しつつ、「憲法九条にノーベル賞を」という運動を推進している。
結果、オスロ国際平和研究所(PRIO)は「憲法九条こそA.ノーベルの遺志に添う」として、候補トップに挙げている。
参照:Nobel Peace Prize 2014: PRIO Director's Speculations (英語)
参照:Article 9 and the East Asian Peace (英語)


2015年については、2月1日の締切である。(10月10日発表)

A.ノーベルは知られるとおり、ダイナマイトの発明で巨万の富を築いたが、それが殺人に使われたことを嘆き、ノーベル平和賞を創設した、と言われている。が、実はもっと世俗的理由がある。思いを寄せたBertha von Suttner男爵夫人が熱烈な平和主義者だったことで、彼女は平和賞の第一回の受賞者である(1905年)。 
参照:ベルタ・フォン・ズットナー
オーストリアの貨幣にその姿を残す。

ノーベルは、兄弟会社The Nobel Brothers Petroleum Companyとして油田に投資している。場所はバクー(アゼルバイジャン)。オリエント異文化の十字路だ。そこでの陸上油田は枯渇したが、近年、海底油田が開発され、地中海から欧州に輸出するため1768kmの原油パイプラインが敷設された。その名は始点Baku、通過点Tbilisi(グルジア)、終点Ceyhan(トルコ)の頭文字をとってBTCライン。英国BPなどと共に、日本の企業も参加している。

さて、今回の「平和運動」において、内外(中東、米欧)の知識人とのやり取りの中で、改めて考えさせられたのは「平和」ということば。Peaceだけではなく、シバシバPacifism平和主義が使われる。

調べるとPeaceとはPacify(暴徒などを制圧・鎮圧する)ということばの派生語。Pacifistは形容詞。Pacifismは接尾辞-ismを付けた名詞。
pacify a rebellion 反乱を鎮圧する。これはハード・パワー。
pacify a crying child泣く子をあやす、はソフト・パワーと言えよう。
ちなみにThe Pacific Ocean太平洋。探検家のマゼランが,それまで航海してきたどの海よりも穏やかであったために「平穏な海」と名付けた、と物の本にある。

嘗ての「ローマの平和Pax Romana」のごとく、圧倒的な軍事力と経済力によって維持してきた平和に倣ったPax Americanaにはほころびが出ている。他方、日本的「平和」Peaceとは「安寧・(精神的)状態」であり、微妙なズレがある。

f:id:TBE03660:20201206115506j:plain

ロンドン市民にVサインを掲げるチャーチル

「ピース」と言えば、写真を撮られる時に、指で V の字を表し口で 「ピース」と言っている。VがVictoryなのはわかる。Vサインがよく知られるようになったのは、第二次世界大戦中。イギリス首相チャーチルが、戦争の継続と勝利への強い意欲を表現するためにVサインを使用した。
ではそれがなぜピースなのか? どうも日本に特有のサインのようである。

従い、例えば、広島・長崎といった「平和を願う場面」で(の写真撮影など)、Vサインのポーズするという慣習は、適切とは言えない。

参照:もうすぐノーベル平和賞発表、最有力に日本国憲法第9条が浮上!

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2014年11月号)より転載・加筆。