浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第58回】 新年 〜 馬脚を表わさないように


2014年01月30日

 

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出典:bizocean

2014年の幕開け。平成26年、干支(えと)は「午(うま)」だ。
「牛とどう違うのか?」と駐日サウディ・アラビア大使(早稲田大学卒、日本語堪能)に聞かれた。「うん、角(つの)が無いのだ」と答えたが、納得してもらえたか?

その大使から、旧臘、競馬(府中)に招かれた。ミュージカル「My Fair Lady」で、ヘップバーン演じるロンドン下町娘イライザが貴婦人に仕立てられる過程で連れて行かれたのがアスコット競馬場の「社交場」だった。

そんなことを思いだしながら「アラブ馬」ということを考えた。
首都リヤドの駐在中、砂漠の中にあった馬場で乗せてもらったのは「アラブ馬」だった。町には確かに競馬場もあったが、駱駝レースを観たような気もする。
そのアラブ馬を先祖として、Thorough Bred、つまり、純血交配を続けてきた極めて繊細な芸術作品がサラブレッドなのだーー。

話は突然1973年7月に遡る。筆者は蒸し暑いドゥバイ(UAEアラブ首長国連邦の一)の安宿、効率の悪いクーラのもと、寝苦しい夜を過ごしていた。
ロビーが騒がしい。詳しくは後日分かった。

パリから東京に向かってたJAL機が赤軍派にハイジャックされ、ドゥバイに着陸。結局リビアベンガジ空港に向かいそこで爆破された。
その間、3日間、管制塔にこもってテロ側と交渉にあたったのが、当時25歳だったUAE防大臣のSheikh(称号) Mohamad(本人名) Al Maktoum(家名)だった。

さて、その「シェイク・モハマッド」こそ、現在のUAEのドゥバイ首長である。モハマッド首長は海外からの投資を積極的に受け入れ、ドゥバイを湾岸地域における観光と商業の中心都市に成長させた。その名を知る人ぞ知る。世界有数の「馬主」として、また「サラブレッド・ビジネスマン」として。競馬王マクトウーム家4人兄弟のこの三男は、競馬組織ゴドルフィンの総帥で、世界各地に牧場を保有している。「シェイク・モハマッド」が馬に魅入られたのはイギリス留学時代。その原点は「我々がサラブレッドを作ったからだ」という自負だった。我々とは砂漠の民ベドウイン。

確かに、古来、馬は人間の友。色々な英語がある。
辞書を引くだけで、hold your horseしばらく様子をみる、ride the high horse 威張る、 work like a horseがむしゃらに働く、a man on horse強力な指導者、horse sense 常識、horse tradingサギ。それぞれ分かるような気もする。
が、翻訳が難しいのは「ウマが合うhit it off/get along well」で、これは騎手と馬との相性を言う。他方、manualのようにラテン語の「手manus」からの派生語がmanageで、元々、手綱で馬を御すことだ。ウマの骨はa nobody。馬耳東風はpreaching to the wind。

興味深いのは「馬脚を表す」。意訳して「show the cloven(割れた) hoof(ひづめ)を見せる」とは悪魔(ヤギ)ということになる。これなどは旧約聖書レビ記」(Leviticus 11:4)に由来するから、奥が深い。 前記イライザは競馬場で興奮して馬脚を表してしまい、つい叫んでしまう。Move your blooming arse!"  (解説は本稿では憚るので、皆さま、お調べあれーー)

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2014年1月号)より転載・加筆。

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