浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第418回】 海底ケーブル ~ 経済安全保障の鍵

(承前): 

【388回】新年に想う大きなウミヘビ(アンデルセン) 2025/1/4 | ISF独立言論フォーラム

 

本2025年、令和7年の干支(エト)は辰(ヘビ)ということでデンマーク童話作家アンデルセンの「大きなウミヘビThe Great Sea-Serpent」を取り上げた。150年前のこの童話は、今や、インターネットを中心とする世界の電気通信網の99%を占める「海底ケーブルSubmarine Cable」のことである。

そこで、東京西新宿、(旧)KDD国際電電本社前のアンデルセンの童話にもとづくリリーフをチェックしてみる。1871年に長崎とウラジオストック/上海を結ぶ日本初の海底電信線をデンマークの電信会社が敷設したことを記念して、1974年、KDDビル竣工時に設置したものだ。

正面には5枚。A Fool愚か者、Th Sun太陽、A Mill-man風車、A Balloon風船、A Witch魔女。そして裏側の5枚はA Clown Dancer道化師、A Small Palace小さな宮殿、プリマドンナA Prima Ballerina、A Chinese Palace中国の宮殿、A Dancing Girl踊り子、と一連の楽しい画像だ。

(旧)KDD前のリリーフ

だが、どうしたことか、海底ケーブルを描いた「ウミヘビ」が無い。

調べると、アンデルセンは「切り絵」が得意で、このリリーフはそれに基づくもの。その作品は数百とも数千とも言われるが、どうやらアンデルセンは子供達にお伽話をしながら切り絵を作りプレゼントしたりで現存するのは少ない、とのこと。成る程、どうもそこに「ウミヘビ」が見つからなかったのではなかろうか。

ともあれ、このグルーバル競争の時代にあって「情報通信」は極めて重要であり、今年に入り、6月、政府(経済産業省総務省)は産業成長戦略、デジタル戦略として、2026~30年に、新たに世界で施設する海底ケーブルの世界シェアを、現在2割程度から35%以上を日本が担う目標を掲げた。海底ケーブルについて日本企業は米国やフランスと並んで高い市場シェアを占めるものの、近年は中国企業が台頭している。

ケーブル生産や海底設置技術、保守船舶の保有などを進めるまさに「経済安全保障」Economic Securityである。それは「官民一体」プロジェクトでありグローバル・ビジネス界にあっては重要課題である。市場ニーズに合わせた技術開発にも補助を出す。海底ケーブルの供給能力を高めるほか、光技術を軸にした次世代の通信インフラを整備する。

となると、この壮大なプロジェクトを考える時、やはりアンデルセンの「大きなウミヘビ」の記述、就中、最後の結びが胸に響く。

They(魚や海底で這いまわる生き物)do not understand that thing from above(上からやってきたウミヘビ=海底ケーブル)、the most wondrous of the ocean's wonders is our time's -(我々の時代で一番ふしぎな海のものを)理解してない。

確かに、スマホやパソコンと携帯の電波やWi-Fiでつながるネットは無線だが、基地局から先、海外に向けての膨大な広がりは有線の通信線、即ち、海底ケーブル。インターネットが99%海底ケーブルに依っているということは、知られてない。

150年前のこの楽しい童話に含まれる「海底ケーブルの重要さに多くの人々は気づいてない」との警告! こころせねばならない。