浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第374回】Serendip ~ 今に活きる1500年前のペルシャのおとぎ話

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インドの東南。インド洋に浮かぶ島国、セイロンCeylon Dominion。

Dominionとは(英)連邦内の自治領。歴史的に欧州各国の植民地であったが今はSri Lanka(聖なる光り輝くの意)。

だが、やはり往時のセイロンという名には歴史がありノスタルジーを覚える。

例えば、岩倉具視使節団一行は米欧回覧を終え,航路帰国。スエズ運河、灼熱の紅海を通り、1873年8月9日、セイロンの南部ガル港に到着。「緑滴る極楽」と記してる。

これは筆者の中東駐在時に訪問した思い出でもある。

また、明治時代の高僧、円覚寺派管長釈宗演。慶應義塾別科で学んだあと、福澤諭吉らに薦められ、セイロンで仏教の原典を学ぶ。1887年3月31日、コロンボに到着。

九州より少し大きい国土では、かってはコーヒーの栽培が盛んだったが、19世紀後半から紅茶栽培に切り替わり、いまや世界最大級の紅茶輸出国だ。

さて、本稿の主題はペルシャのおとぎ話「serendip(=セイロンの原名)の三人の王子の遍歴」だ。

ペルシャのおとぎ話(竹内慶夫篇約。偕成社文庫)

 

18世紀の英作家ウオルボールが幼年時代に読んだというペルシャのおとぎ話がその名を生むことになった。

旅に出た(ペルシャの)三人の王子はベーラムの国でラクダ泥棒の疑いをかけられたが、ずば抜けた機転により晴らし、皇帝の命をも救う。

「偶然と才気によって発見」の典型的例は第一回ノーベル物理学賞受賞のレントゲン博士によるX線の発見。研究室で光るはずのない場所においてあった蛍光版が光ってる偶然に気が付き、「はてな」と不思議に思い、その原因を追究結果、新しい放射線を発見。X線と名付けた。

そして、2000年、12月10日。ストックホルムでのノーベル化学賞の授賞式での授賞のことば、だ(ノーベル委員会)。

Professors:

You are being rewarded for your pioneering scientific work on electrically

conductive polymers. Your ”serendipitous discovery" of how polyacetylene

could be made electrically conductive has led to the prolific development,

of a research field of great theoretical and experimental importance.

つまり、電流をプラスチックに流すことは不可能だったのが、このHeeger, MacDiarmidそしてShirakawaいう三人の学者の「共同発明」によりそれが可能となったのだ。

そのきっかけは大学で教えていた学生の失敗だったとのこと。まさにセレンディップ! 3人が発見・発明した導電性高分子は、現在、リチウムイオン電池や携帯電話のタッチ>パネルなど、多くの場所に応用されている。

かくして、この「ベーラム国」という今から1500年前、ササン朝ペルシャの魅惑的な物語が、グローバル化の現在に教訓を示してる。

「ラッキーな偶然」ではなく「才気」と「偶然」による「発見」―!

 

尚、同書の端末に編著者の竹内慶夫氏(故人)による解説が記されていて実に興味深い:ベーラム皇帝はササン朝ペルシャ(イラン)に実在したフラーム五世(在位420 ~ 440)とされている。

一般的にペルシャ帝国とはササン朝あるいは数世紀前のアケメネス朝をさす。

因みに、1971年に開催されたイラン建国二千五百年祭典は、当時のシャー(皇帝)パーラビがアケメネス朝建国以来のイランの君主制2500周年を祝ったものだった。

 

JOEA「月刊グルーバル経営」2024年9月号拙稿Global Business English File第103回より転載、加筆。