世界を揺るがすCOVID19新型コロナ・パニック。
筆者が、シカゴ学派の碩学F.ナイトの名著『Risk, Uncertainty and Profit危険・不確実性および利潤』(1921)に基づき、日本における「Evidence証左」即ち、死亡者数(奇跡的に少ない)の検証、分析を提案してから丁度一年が経過した。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/04/11/144348
現下、やはり、「死亡爆発(⇒殺人伝染病的恐怖)」は生じていない。
この経済学におけるリスク論(本来、人は曖昧さを回避する傾向を持つ)はかのジョン・メイナード・ケインズKeynes(1883~1946)に並ぶ。
加えて、ダニエル・エルズバーグDaniel Ellsbergは 1962 年、母校ハーバード大学から経済学博士PhD. in Economicsの学位を得ている。その学位論文のタイトルは『リスク、曖昧性および意思決定Risk, Ambiguity and Decision』という野心的なものだった。
後年、映画にもなった「ペンタゴン・ペーパーズ(1971年、ベトナム戦争の不当を暴いた)」があまりにも有名ゆえ存外知られてないが貴重な論考だ。 因みに、2018年5月12日、NYCにおける「(地球終末まで)あと二分」シンポジウムでの同氏の熱弁は忘れられない。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2020/10/16/000000
さて、近年のビジネス・リーダ論において蘇っているのがVUCA論。Volatility変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性の頭文字(acronym/initialism)だ。 1990年代に米国での軍事用語として誕生した。
従来、戦争は国と国の戦いで、HQ本部が作戦を作り、これに沿って現場部隊が実行する。ビジネスも同様で、トップマネジメントが戦略を立て現場が実行するモデルだ。
ところが、2001年の911同時多発テロ以後、戦いの相手は国ではなく組織も良くわからない。 ということでVUCA論が登場。2010年代以後、経営やマネジメントの文脈においても取り上げられるようになり、2016年ダボス会議などの国際会議でもビジネス論として多く取り上げられ「VUCAワールド」「VUCAの時代」の到来となった。世界治政が複雑になり、将来の予測ができない環境下ビジネス界でも応用すべき戦略だ。
このVUCA時代に活かせる実践はOODA「Observe観察・Orient仮説構築・Decide意思決定・Act実行」とされる。従前からのPDCAサイクルにあっては、Plan計画・Do実行・Check評価・Action改善を繰り返すことによって生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していった。この手法は予想外の事態が起きにくい環境においては、効果を発揮する。が、VUCAでは曖昧な未来に向かって新しいイノベーションを生み出すことが要求される。
と述べた上で、改めて、曖昧について考えて見よう。大江健三郎はノーベル文学賞受賞講演(1994)において、日本文化の特徴を「あいまいな日本の私Japan, the ambiguous, and myself」というテーマで語った。(川端康成の「美しい日本の私Japan, the beautiful, and myself」はそれに26年先立つ)。曖昧は日本文化の特徴ではあるものの、一方、そこからの結果として過去に生じた悲劇、惨事の可能性にも留意せねばならない。第二次世界大戦は曖昧な「統帥権」から端を発したとも大江は暗示している。
さあ、VUCA時代とあって曖昧(な決定)は奏功しないグローバル化社会。だが同時に、あいまい文化はあいまい文化として、大江は同演説においてJ.オーウエルの言葉を借りて「人間味あふれたHumane」、「まともなSane」、「きちんとしたComely」、「上品なDecent」日本人でありたいと謳いあげた。
VUCAの時代だからこそ、大切にしたい生き方だ。
(一社)在外企業協会 「月刊グローバル経営」2021年6月号(第87回)より転載・加筆