浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第203回】 DEIB ~ ハーバードの指針に学ぶ

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White House 発表

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女性を削除したユダヤ誌 (AP)


東京オリ・パラ組織委員会会長の森喜朗・元首相が2月3日のJOC議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言。一連の発言が女性蔑視として追及され、陳謝したが辞任となった。グローバル・ビジネス展開上、心せねばならない課題だ。 

差別discriminate、排除excludeは論外として、(男女はお互いに)「違う/異なる different」ということは注意を要する。だが、現実社会生活にあって「老婆心」ながら言えば、例えば夫唱婦随。辞書によれば「夫が言い出し、妻が従う。夫婦仲がよいこと」とある。が、今や要注意。逆に婦唱夫随としても対等ではない。

となると、やはりdiversity多様性が腑に落ちる。 

このGender(性別)の根は人間の文化(宗教)史の深いところにあるわけだが、一神教で同根のキリスト教イスラム教そしてユダヤ教を見てみよう。 

まず、キリスト教旧約聖書の創世記2章22節Genesis 2:22には「女性は男性のあばら骨から作られた」とある。 And the rib, which the Lord God had  taken from man, made He a woman, and brought her un the man. (訳:King James Version)

イスラム教の聖書コーランクルアーン)にはもっとはっきり記されている。アッラーはもともと男と(女)との間には優劣をおつけになった:4章女38節」(井筒俊雄「コーラン岩波文庫)。Men shall have the preeminence above women, because of those advantages wherein Allah hath caused the one of them to excel the other. 「また、(生活に必要な)金は男が出すのだから、この点で男の方が女の上に立つべきもの」「だから、貞淑な女は(男に対して)ひたすら従順に」と続くーー。(尚、原文はアラビア語で、翻訳・解釈は多々ある) 

そして、ユダヤ教。その超正統派の週刊誌はこのジェンダー問題を視覚的にはっきりと示した。 米ニューヨーク市ブルックリンで発行されているDi Tzeitung(「時」の意)2011年5月1日号が、オバマ大統領と閣僚らが911テロの犯人と断定したビンラーディン容疑者殺害作戦の中継を見守る様子を写した写真からヒラリー・クリントン国務長官ら女性を「削除」して紙面に掲載した。 

この問題で同誌は9日、「女性蔑視の意図はなかった」と謝罪した。 編集部は「宗教上の理由から、女性の写真は載せないことになっている」と説明。「女性はその外観でなく、誰なのか、何をしたかで評価されるべき。ユダヤ教の規則では謙虚さへの尊敬であり、その反対(軽蔑)ではない」としている。“women should be appreciated for who they are and what they do, not for what they look like, and the Jewish laws of modesty are an expression of respect for women, not the opposite" 

人種の坩堝と言われる米国のNY発のこの「(古典的)性区別」はひとの心に潜む「異文化」の例と言えよう。 

時代は進み、同じ米国西海岸のボストンを拠点とするハーバード大学がDEIB綱領を掲げている。 Diversity多様性, Equity公正, Inclusion包含, Belonging所属(=皆が多様な個性を受け入れ、寛容性を共有できる組織)、を提案している。同大にはDEIB Personalized Learning Project (DPLP)があり、全ての関係者はこの指針に従わねばならない、とのこと。これは現代のビジネス推進上の指針としても浸透しつつある。 

と述べた上で気になるのは、森発言以降「男性による老害」がしばしば論議の遡上に載せられていること。筆者にはいささか居心地が悪いが、バイデン米大統領の78歳。多様性ということなら、オヤジの「年の功」Wisdom of the aged(拙訳)ももっと評価されてよいのではないだろうかーーー。 

(一社)日本在外企業協会「月刊グローバル経営」(APRIL2021)より転載、加筆

 

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