浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第122回】コロナで想うナイトのUncertainty

 

2020年6月1日

 

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"Risk, Uncertainty and Profit" by Frank H. Knight

新型コロナウイルス Novel Coronavirus Disease (COVID-19)が世界を恐怖に陥れ、ビジネスや教育はじめ社会システムを崩壊に導いている。そこで使われている英語を点検してみよう。

まず、Novel とは通常「小説」と理解されるが、実は「新規」の意、なるほど。Pandemic とはギリシャ語Pan「全て」+dēmos「人々」が語源。Overshoot は的を越える。金融市場などで用いられるが「感染爆発」とは直結しない。また、Lock Down は本来「鍵をかけて閉じ込める」であり、「都市封鎖」という意味にはならない。Quarantine 検疫、これが興味深い。イタリア40日間が語源。疫病が船で東から来るので、当時の海外貿易の中心ヴェネチアでは潜伏期間を考えて40日間疑わしい船語のquarantenaを強制的に停泊させたという。

同様に古い紀元をもつ重要語 triage。催患者を3段階tri-に分けて治療する。福祉国家で知られるスウェーデンは元々「延命治療」をしないということで、今回高齢死亡者の数が多い。

さて、今回の「騒動」を巡る重要単語は Uncertainty 不確実性。経済学で有名なシカゴ大学教授フランク・ナイト Frank Hyneman Knight (1885-1972)はその著書「Risk, Uncertainty and Profit (危険·不確実性および利潤)』(1921)で、確率によって予測できる「リスク」と、確率的事象ではない「不確実性」とを明確に区別した。個人的な解釈を含めて言えば、そこには3つの種類がある。

1つ目はある状態を確率で特定したり分類することが不可能な「推定」。2つ目は例えば「2つのサイコロを投げて目の和が7になる確率」というように、数学的な組み合わせ理論に基づく「先験的確率」。そして3つ目は例えば(自動車)事故のように経験データに基づく「統計的確率」である。

確率(エビデンス·根拠)が分かると「(予知でき、対策も考えられる)リスク」となる。ここから、投資などの各種ビジネスが発生し、利益が得られる。さらに、「企業家」の最も本質的な行動は「新しいこと」への挑戦、「不確実性」と真正面から対決する報酬として「利潤」を手に入れる (出所:「1997年一世界を変えた金融危機」竹森俊平、朝日新書)。

今回の「コロナ禍」について「感染者数」ではなく、人口10万人あたりの死亡者数を見ると、日本は0.38人と奇跡的に少ない。ちなみに、スペイン52.87人、イタリア47.82人、英国42.76人、スウェーデン26.25人、米国20.63人……。一寸先は分からないが、これを総じれば、ナイトのいうエビデンス(統計数値)によるリスク、すなわち対応が可能ということになるのだろうか。

神ならぬ身の知る由もなし。今はヘミングウェイの言葉をかみしめながら「正しく恐れよう」。"Courage is grace under pressure勇気とは窮地に陥ったときにみせる気品のことである)” 

JOEA 「月刊グローバル経営2020年6月号:Global Business English File 82」より転載・加筆