浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第51回】 緊急提言 〜「大学入試にTOEFLなどを」*の検証を


2013年05月07日

 

自民党の遠藤利明教育再生実行本部長(左から2人目)から提言書を受け取る安倍首相
自民党遠藤利明教育再生実行本部長(左から2人目)から提言書を受け取る安倍首相(出典:共同通信)

4月8日、自民党教育再生実行本部(本部長:遠藤利明衆議院議員)が安倍首相に「大学入試にTOEFLなどを」*という提言を提出した。
参照:Japan Times: LDP panel binds TOEFL to degrees

*多くの報道では「TOEFL」となっているが、実際の提言には「TOEFLなど」、
つまり、「TOEFL以外のテストの可能性」も示唆されている。一見、些細な言葉遊びのようだが、実務的には極めて重要な点である。

そして、5月1日、朝日新聞朝刊の「オピニオン」欄では、大幅紙面を割いて、その提出者である遠藤利明氏と、反対派の和歌山大学教授江利川春雄氏との「争論」が掲載された。
まさに「日本の将来を決める(英語)教育論争」だ。

「争論」を仔細に読む限り、TOEFLを受験したことがないという遠藤利明氏の主張に分はない。
江利川氏の言うとおり、それは「体育の授業の目標を国体出場レベルにしよう」といってるようなものであり「非現実的」だ。

例えば、TOEFLを施行する米国ETSの公式説明によると、4技能のうち、スピーキング・テストについては、録音された一人の音声回答について3-6人の採点者(=人間)が評価する、とのことだ。(仮に)50万人の受験生について必要な膨大な延べ人数の採点者をどう確保するのか? また、その客観性がどう保障されるのか、という決定的な疑問が残る。
参照:ETS®:TOEFL® テストを受ける理由

しかし、遠藤氏の言う、「じゃあ、何をやります?」「いい方法があったら教えて下さい」「これまでの英語教育がうまくいってないから、変えないといけない」というのは、我々英語教育関係者にとって実に鋭い問題提起である。
この自民党提案は7月(21日予定?)の参議院選挙に向けた「マニフェスト」という性格のものであり、早急に「何がよいのか」という議論がまとめられなければならない。

ブログなどで、論議が出ているなか、慶應義塾大学外国語教育研究センター所員日向清人氏の論評は鋭く、的確である。 参照:TOEFL 導入論について

  • アメリカ留学するわけでもない人に語彙水準としてTOEFL並みを要求するのは酷。
  • TOEFLは留学生を受け入れる大学の足切りテストであり、コミュニケーション能力を測るものではない。
  • 見える形で英語学習の成果を捉えようというのは大進歩。
  • 問題は費用。(225ドルx 90円/ドル=20250円。x 50万人=毎年100億円)
  • 効果測定を怠ってきたのではないかという点で、しかるべき代案を出してもらいたい。

加えて、朝日新聞5月5日朝刊、第一面トップ記事は「官僚もTOEFL必須」「キャリア採用に導入へ」として、TOEFLTOEICの比較表を掲載している。
前述日向清人氏は、このTOEIC偏重について長年警鐘を鳴らしている。
参照:TOEICの問題点三つ

■ 関連サイト
(筆者が)日頃より敬愛するお二人のブログ
朝日新聞「争論」の討論者、江利川春雄氏
言語認知科学者 大津由紀雄氏
大津由紀雄氏:失望。でも、侮ってはいけない。

(なお、筆者は日本の英語教育における重要なLeverage梃として、スピーキングテストVersant®とGlobish® Global Englishの普及をライフワークとしており、即ち、利害関係者であることを、公正を期すため、記します。)
「仕事で使える英語」への提言(前) Globish (Global English)
「仕事で使える英語」への提言(後) スピーキングテストVersant