浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第22回】 「(年代の)違いがわかる」nestle


2010年09月01日

 

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Nestle

プリン。あのおいしいお菓子は何だかプリンプリンという擬態語phenomime的プリティー(可愛い)な表現だ。
プリンとは英語(外来語)かと思って辞書を引くと、prinはなく(custard) puddingと出てくる。プリンとはプッディング、つまりネイティブ的発音を表記したものかと感心させられる。
子供たちに人気のポケモンに出てくる「プリン(プックリしたキャラクター)」は該当語(英語)がないからか、アメリカではprinではなく「Jiggle(揺れ)-Puff(膨れたもの」と称される。
(尚、ポケモン自体は厳格なキリスト教徒やイスラーム教徒に忌避されており、注意を要する。為念)

Kit Katというチョコレート菓子もおいしい。キットカットから「きっと勝つ」をいうことで、受験生やスポーツ生が縁起を担ぐ。受験シーズンのげん担ぎアイテムとして有名。この現象はフィリップ・コトラ―が「マーケティング原理」で取り上げている。キットカットとは18世紀、イギリスに「Kit Kat Club」という政治社交クラブがあり、そのオーナーのChristpher KatがKitというニックネームで呼ばれていたことから、このような名前が付けられたらしい。
さて、このプッディングとキットカットには綴りからくる発音上の共通点がある。母音に続く子音geminate consonant(閉鎖音k、t、pや摩擦音s)による「促音」だ。
sonority(聞こえ度)が低いから音がつまる。

例えば、スポーツなどで使われるハッスルhustleとは頑張るとか精力的な実業家という意味。We hustled to make the business pay.利益が上がるように商売に精を出した。
但し、米語では「押し売り」だし、詐欺師、ペテン師、賭博師、勝負師に加えて街娼という悪い意味がある。hustle a living=いかがわしいやり方で生計を立てる。

促音の例はbustle、castle、rustle、whistle、wrestle、buckle、tackle、tickle、muscle、necklace、 batch、kitchenと多々ある。

中で、実に心地よいのはnestle (巣)。The baby nestled in mother's arms.

母親の腕の中ですやすや眠る赤ちゃん。そのほっぺはまるでプリンのようだ。
nestle の語源は、古英語 nestlian (巣作りをする)。
日本語発音表記は「ネッスル」だ。

スイスの世界的食品会社 Nestlé SA(1866設立)はドイツ・フランクフルト生まれの創業者Henri Nestlé (1814-1890)の名前に由来する。
Nestle家はもともとドイツ南西部のシュヴァーベン(Schwaben)の出。同地におけるNestleとは「小鳥の巣」という意味とのこと。現代のドイツ語辞書を引くとNest-lein(小さな巣)とある。確かに、同社のロゴには小鳥と巣の絵がある。
日本では1913年(大正2)には横浜に支店がつくられている。
(因みに、今や前述Kit Katも同社の製品)

そんな古い歴史がある同社は1994年に社名をそれまでの「ネッスル」から、「ネスレ」に変更した。同社の資料によると「ネッスル」とは、同社の社名(創業者名)である「Nestle」を英語読みにしたものだが、フランス・ドイツ語読みの「ネスレ」を世界的には使用しているため、表現の統一を図るために変更した、とある。

学生達や娘に聞いたら「ネッスル」は全然ピンとこない。皆、「ネスレ」派だ。
一方、わが同級生や家内には「ネッスル」が沁み込んで抜けてない。
故に「違いがわかる」という同社コーヒー製品のCMをもじって言えばネッスルネスレかで「(年代の)違いがわかる」ということになる。
げに、ブランド・ロゴは市民の意識に浸透するビジネス計画上の大事な要素である。

(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆