浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第215回】 VUCAの時代:あいまい(ambiguous)な日本の私

 

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The People Side より




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大江健三郎氏のノーベル文学賞受賞スピーチ



 

世界を揺るがすCOVID19新型コロナ・パニック。 

筆者が、シカゴ学派碩学F.ナイトの名著『Risk, Uncertainty and Profit危険・不確実性および利潤』(1921)に基づき、日本における「Evidence証左」即ち、死亡者数(奇跡的に少ない)の検証、分析を提案してから丁度一年が経過した。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/04/11/144348

現下、やはり、「死亡爆発(⇒殺人伝染病的恐怖)」は生じていない。 

この経済学におけるリスク論(本来、人は曖昧さを回避する傾向を持つ)はかのジョン・メイナード・ケインズKeynes(1883~1946)に並ぶ。 

加えて、ダニエル・エルズバーグDaniel Ellsbergは 1962 年、母校ハーバード大学から経済学博士PhD. in Economicsの学位を得ている。その学位論文のタイトルは『リスク、曖昧性および意思決定Risk, Ambiguity and Decision』という野心的なものだった。

後年、映画にもなった「ペンタゴン・ペーパーズ(1971年、ベトナム戦争の不当を暴いた)」があまりにも有名ゆえ存外知られてないが貴重な論考だ。 因みに、2018年5月12日、NYCにおける「(地球終末まで)あと二分」シンポジウムでの同氏の熱弁は忘れられない。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2020/10/16/000000

 

さて、近年のビジネス・リーダ論において蘇っているのがVUCA論。Volatility変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性の頭文字acronym/initialism)だ。 1990年代に米国での軍事用語として誕生した。

 従来、戦争は国と国の戦いで、HQ本部が作戦を作り、これに沿って現場部隊が実行する。ビジネスも同様で、トップマネジメントが戦略を立て現場が実行するモデルだ。

ところが、2001年の911同時多発テロ以後、戦いの相手は国ではなく組織も良くわからない。 ということでVUCA論が登場2010年代以後、経営やマネジメントの文脈においても取り上げられるようになり、2016年ダボス会議などの国際会議でもビジネス論として多く取り上げられ「VUCAワールド」「VUCAの時代」の到来となった。世界治政が複雑になり、将来の予測ができない環境下ビジネス界でも応用すべき戦略だ。

このVUCA時代に活かせる実践はOODAObserve観察・Orient仮説構築・Decide意思決定・Act実行」とされる。従前からのPDCAサイクルにあっては、Plan計画・Do実行・Check評価・Action改善繰り返すことによって生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していった。この手法は予想外の事態が起きにくい環境においては、効果を発揮する。が、VUCAでは曖昧な未来に向かって新しいイノベーションを生み出すことが要求される。 

と述べた上で、改めて、曖昧について考えて見よう。大江健三郎ノーベル文学賞受賞講演(1994)において、日本文化の特徴を「あいまいな日本の私Japan, the ambiguous, and myself」というテーマで語った。(川端康成の「美しい日本の私Japan, the  beautiful, and myself」はそれに26年先立つ)。曖昧は日本文化の特徴ではあるものの、一方、そこからの結果として過去に生じた悲劇、惨事の可能性にも留意せねばならない。第二次世界大戦は曖昧な「統帥権」から端を発したとも大江は暗示している。 

さあ、VUCA時代とあって曖昧(な決定)は奏功しないグローバル化社会。だが同時に、あいまい文化はあいまい文化として、大江は同演説においてJ.オーウエルの言葉を借りて「人間味あふれたHumane」、「まともなSane」、「きちんとしたComely」、「上品なDecent」日本人でありたいと謳いあげた。 

VUCAの時代だからこそ、大切にしたい生き方だ。

 

(一社)在外企業協会 「月刊グローバル経営」2021年6月号(第87回)より転載・加筆

【第214回】澤地久枝さんの「わが人生の案内人」⇒ 遠藤三郎翁

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澤地さんの「わが人生の案内人」(文春新書)

 

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澤地久枝さんと鳥越俊太郎さん(国会前)

 

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遠藤三郎翁の生前設立墓碑


澤地久枝 さん:

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784166602568

1930年、東京生まれ。1963年、「婦人公論」編集次長を最後に中央公論社を退社。作家五味川順平氏の資料助手の経験から処女作「妻たちの2・26事件」が生まれる。(同書紹介から) 

「9条の会」の発起人の一人として、今もお元気に平和運動の先頭にたっておられる。 

その澤地久枝さんの「人生の案内人」の一人が、遠藤三郎(元)陸軍中将。同書の「『閣下』と呼ばれた人」(p84)はこう始まる:「電話のベルが鳴る。受話器を取ると『久枝さん?』ちょっと語尾をあげて、いたずらっぽい笑い声」。「それが遠藤さんからのいつもの電話。『あのな――』と本題に入る。思えば不思議な縁で思わぬ人に愛されたと思う」――と続く。 

澤地さんは、五味川純平氏の資料助手となり(昭和38年秋)、昭和の軍事史について必至の勉強をはじめ、万端五味川さんからきびしく仕込まれた、とのこと。その過程において、20年を越える親交をもつことになったのが、遠藤三郎氏。(1984年、昭和59年10月11日、没) 

その遠藤三郎翁=「日中友好軍人の会・遠藤三郎中将」とのことを知った筆者は昨2020年9月、遠藤翁のご自宅(狭山市)を訪ね、ご令嬢十九子(トクコ)さんの親切なご説明を受けた。 

そこには翁が残した自然石にこうある。「軍備全廃を訴え続けた元陸軍中将遠藤三郎茲に眠る」という生前建立の墓碑だ。 

さて、その遠藤三郎(元)陸軍中将が国会に参考人として招致された記録がある。第19回国会 衆議院 内閣委員会公聴会 第2号 昭和29年4月14日                    「防衛庁設置法案及び自衛隊法案について」                                                             委員長 稲村順三君                                                                                                     出席公述人農業 (元陸軍中将) 遠藤三郎君

https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/101904914X00219540414/9

「私はこの問題(注:国連主体の安全保障)は今急に考えたのじやございませんので、昭和二年ジユネーヴで行われた海軍軍縮会議に出席したときから頭におぼろげながら浮びつつあつて研究を続けて来ておつたのであります。その後フランスに留学中、オーストリアのクーデンホーフェ氏が欧州連邦ということを唱え出しました。その説を聞いて、私は非常に感銘したのでありますがーーー」。 

ここに記されてるのが「EUの父」クーデンホーフ卿(日本名栄次郎)だ。https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2020/10/12/000000                                     時空を越えての広がりーー!!

 

「関連、後日稿」

【第260回】日中友好元軍人、沖松信夫氏を偲ぶ会 - 浜地道雄の「異目異耳」

 

参考:

1)遠藤翁の思いは「日中友好8.15の会」(日中友好元軍人の会)沖松信夫代表に引き継がれている。 写真は南ユタ大学のMathew Eddy教授の「平和映像」インタビュー終えての沖松氏(平和教育家、浅川和也氏と共に)。熊谷市のご自宅にて、2020年8月

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遠藤三郎翁の想いを継ぐ沖松信夫氏(最後の特攻隊)



2) https://www.jnpc.or.jp/journal/interviews/22407/

毎日新聞

【第213回】イスラエル・パレスチナ紛争に思う「西東詩集管弦楽団」

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主催者Tempo Primo(共催・日本経済新聞社)のポスター


https://ebravo.jp/archives/87309 (池田卓夫氏によるインタビュー)

巨匠、バレンボイムが、来日公演。昨28日(2021年5月)、東京に無事到着したとのこと。

 折しものイスラエルパレスチナ紛争(ガザ攻撃)というタイミングから、(元)中東駐在の商社マンとして、筆者の思いは西東詩集管弦楽団 (同サイトから)に行く。https://west-eastern-divan.org/

 その和平を願いながら、2009/01/13の拙稿を再掲する。

                 = 記 = 

 米ブッシュ政権を誤らせ、オバマ新大統領にとっても、世界的にも大きな課題である中東問題は「イスラエルパレスチナ問題」に帰結するというのが筆者の持論だ。パレスチナイスラエル)問題は共存共栄でしか解決できない。悲劇的なのは両者に言い分あるということ、だ。
 これを大前提として状況を観察していて、今回、昨年12月27日に開始されたイスラエル軍の軍事作戦によるパレスチナ側の死者が800人に達した(パレスチナ側発表)という紛争の関連で象徴的に悲しいのは、日本ではあまり報道されないが、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団(West-Eastern Divan Orchestra)の中東演奏旅行が中止されたこと。
 同管弦楽団はアルゼンチン生まれのロシア系ユダヤ人(イスラエル国籍)である指揮者・ピアニスト、ダニエル・バレンボイム(1943−)とパレスチナアメリカ人文学者エドワード・サイード(1935~2003)により1999年に設立された。

 バレンボイムは今年(2009)のウイーンフィルによる「ニューイアーコンサート」が生中継され、日本人にも馴染みの指揮者だ。(*又、2022年も登壇予定)


 その楽団名はゲーテの「西東詩集」West(西)-Oestlicher (東)-Divan
トルコ語ペルシャ語アラビア語でCouncil=国政会議、Diwan)から命名されている。

 ドイツの大詩人ゲーテは東洋オリエントにあこがれ、聖コーランクルアーン)やハーフェズ(イランの詩人)に憧れることになり、1819年に『西東詩集』(せいとうししゅう、原題:West-Oestlicher Divan )を刊行した。

 (*その「憧れ」は「愛と対話が開く宇宙(野口薫)」に窺い知ることができる) https://www2.chuo-u.ac.jp/up/isbn/ISBN978-4-8057-5180-0.html 

 楽団は、「東西融和」「共存への架け橋」を目指して結成され、メンバーは対立するイスラエルアラブ諸国の若き音楽家たちである。毎年夏にスペインのアンダルシアで合宿し、中東を含む海外演奏ツアーをおこなっている。

 今回の中止は2006年7月のイスラエルによるレバノン侵攻時以来、二度目のことだ。

参考:

1) 同楽団のサイトにあるバレンボイムの言葉 (拙訳)
- There is no military solution to the Israeli-Palestinian conflict.
イスラエルパレスチナ紛争では、武力解決の道はない】

- The destinies of the Israeli and Palestinian people are inextricably linked and the land that some call Greater Israel and others Palestine is a land for two people.
イスラエルパレスチナの人々はほぐすことができないほど結びついている。一部に言われる「拡大イスラエル」とは他方「パレスチナ」と呼ばれ、それはその二つの人民のものである】

2) バレンボイムは2004年、『叙勲』にあたっての謝辞という機会に、イスラエル国会において次の演説をして「元首」から批難を浴びている。
【心に痛みを感じながら、私は今日お尋ねしたいのです。征服と支配の立場が、はたしてイスラエルの独立宣言にかなっているでしょうか、と。他民族の原則的な権利を打ちのめすことが代償なら、一つの民族の独立に理屈というものがあるでしょうか。ユダヤ人民は、その歴史は苦難と迫害に満ちていますが、隣国の民族の権利と苦難に無関心であってよいものでしょうか。イスラエル国家は、社会正義に基づいて実践的・人道主義的な解決法を得ようとするのではなしに、揉め事にイデオロギー的な解決を図ろうとたくらむがごときの、非現実的な夢うつつにふけっていてもよいものでしょうか】

 

「関連拙稿」  

https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/01/20/095124         1989年私のワイマール ~ 西東詩集管弦楽団

https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/04/09/115736             パレスチナ訪問記 

https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/05/23/221446                     中東和平に重要な握手 

https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/05/24/231213                                オスロ合意を日本の手で再構築を

 https://hamajimichio.hatenablog.com/entry/2021/05/05/125135                     夜のBreak Fast (今回ガザ攻撃はラマダン明け、祝いのタイミングだった)

 

【第211回】 グローバル化の必須項 ~ イスラーム文化の理解 (2/2)

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ASEANコンテスト優秀者たち



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聴衆にも若い人が多い



アジアの時代と言われる今、イスラーム文化の理解は、ひとり中近東圏だけでなく、アジアにあっても、やはり理解されねばならない。

まさにそのことを、「ASEAN日本語スピーチ・コンテスト優秀者」発表会・交流会(一般社団法人;日本在外企業協会が長年主催)にて、改めて認識した(2011年10月24日)。

ASEAN各国(インドネシア、タイ、フィリッピンベトナム、マレーシア、ブルネイラオス)でのコンテストの優勝者11人が招待されて来日。うち女子は7人。うち、4人がスカーフ姿,つまり、イスラーム教徒だ。これが象徴的に語っている。

(写真: かこまれる同会会長:伊藤一郎旭化成会長。ユーモア講評で和ませた馬越恵美子桜美林大学教授)

それぞれ、身振り手振りを交えての日本語スピーチは、必ずしも高度・難解な論議を、数値やこぶしを振りかざし、口角泡を飛ばしながらというわけではなく、おだやかで、心に沁みる魅力いっぱい。

翻って、このグローバル化時代にあって、我々日本人について考えること:

1) 「コンテンツ(中身)=何を言いたいのか?」をきちんと整理する
2) 「ペラペラ英語」の必要はない
3) それぞれ自分の文化を大事にし、他者の文化を尊重する

共催のAIESEC(113の国と地域で活動する世界級の、海外インターンシップ事業を運営する学生団体)の若者も、傍聴、参加、懇親。清々しいことであった。

aiesecjp-web

 

関連拙稿:

hamajimichio.hatenablog.com


平和を奏でるチェロ ~ AYOとともに

http://www.janjanblog.com/archives/100172



【ご意見板】一件の書き込みがあります

  1. 浅田明    2013年 10月 29日 16:02

 グローバル化には異文化の理解が必須で日本では特にイスラーム文化の理解が必要だ というご指摘はその通りだと思います。

 浜地さんほどイスラームを知っていませんが それでも日本で受ける感じとイスラームに触れた感じはかなり違うと思っています。

 イスラーム女性差別の激しい宗教だといわれますがトルコではイスラームの男性の女性に対する優しさは欧米人の比ではないと感じました。イスラームの男性は女性は弱い者であり男性は女性を保護する者だという感覚が子供のころから染みついているようです。日本の女性でトルコやイラン、パキスタンなどイスラームの男子と結婚する人が多いのは無理もないという気がします。

 これは一例ですが感じとしてはイスラームは優しい宗教でキリスト教のように上から目線で信仰を説くという事は無いような気がします。もちろんアルカイダのような原理主義者はいますがそれはどの宗教にもある病理的現象が政治状況で増幅されただけでしょう。

 カースト制が根強いインドでイスラーム教だけでなく仏教やキリスト教カースト制を否定し仏や神のまえでの人間の平等を説いたのにイスラームが多くの下位カースト、アウトカーストの人たちを引き付けたのは何故か考えなければいけないと思います。

 イスラームはこれからの世界でますます重要になるとおもいます。これからもイスラームについての投稿を期待します。