浜地道雄の「異目異耳」

異文化理解とは、お互いに異なるということを理解しよう、ということです。

【第92回】ダルビッシュって誰?

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ダルビッシュ店主人と(小伝馬町

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日本ハム時代(HPより)

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東京・小伝馬町のイラン食材店「ダルビッシュ」のオヤジさん

 

2012年11月1日

 

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NYCのトルコ・レストランDervish(筆者撮影)

ダルビッシュ」と聞いて「野球選手」と答えられない日本人は多くはいない。そう、あの日本ハムからアメリカ大リーグのテキサス・レンジャーズに移籍した話題のピッチャーだ。

ところが、「では、ダルビッシュって誰?」「どうしてそういう名前?」と聞かれて、即答できる日本人は殆どいない。他方、アメリカ人に「What is Dervish?」と聞くと、すぐに「Whirling Dervish」と答えが返ってくる。Whirlingの意味は「グルグル回る」だ。

Dervish(Darvish)とはイスラム教の一派、 神秘教団(スーフィズム)のこと。トルコ中南部コンヤのダルビッシュ、メヴレヴィー教団(Mevlevilik)はトルコ帽をかぶり、すその広いスカートでぐるぐる回る祈りの踊りで知られている。

彼らは「アラー神の下においては人間皆平等」ということで、質素を旨とし、物質主義を捨て、世俗を離れて托鉢で生計を立てている。一部で、「貧乏人」という解説も見られるが、「清貧」と解するのが適当であろう。

イスラム教2大宗派の一つ、シーア派は開祖モハマッドの従兄弟で娘婿のアリ(Ali)をImam(指導者)として仰ぐ。ダルビッシュ投手の名前は有(ユウ)だが、それは有り(アリ)とも読める。

同投手の父君はイラン人(元)であると聞くが、シーア派開祖「アリ Ali」への思いがあったのだろう。因みにダルビッシュ選手のフルネームはダルビッシュ・セファット・ファリード・有だ。

多民族、多人種、多宗教が混在する米国では、多様な人々が生活し、それが当然と思われている。従い、ダルビッシュという名前は極く普通にその多様性の中に組み入れられているのだ。だから、彼らに「今活躍中のダルビッシュ(投手)は日本人だ」と説明すると、かえって、「まさか」と驚かれる。興味深い文化ギャップの例である。

米ニューヨークのミッド・マンハッタン47丁目と7番街のビジネス街。そこで「Mediterranean Restaurant(地中海レストラン)」と看板が見えるトルコ料理店の名はDervish(ダルビッシュ)だ。中で、Whirling Dervishの絵を見ることができる。

Whirling Darvish, Sufi, Istanbul 音がでるので注意

スーフィーダンス - Bing video

「Japan Quality Review」2012年11月号より加筆・修正。

【第91回】 サッカリンの娘たち 〜 新年のきもちの良い話

 

2017年01月10日

 

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サッカリンの娘たち(本人承諾済み)

 新年、松の内、午後、快晴。
所要で都内泉岳寺駅から、京浜急行下り特急に乗車。
発車まもなく同じボックス席に座った二人の金髪娘が聞いてきた。
「この電車はSky Treeに行くか?」とーー。
え、まさに逆方向。特急とて横浜まで止まらない。
焦っても仕方がない。横浜でとんぼ返りだが、着いたら教えるから安心せよ、と説明。

さて、そこで「Where are you from?」とspeak-up。二人は完璧な英語を話す。
一人(写真左)はEnglandからとのこと。
そしてもう一人(写真右)はfrom Russiaとのこと。ロシア人がこんな完璧な英語を話すのか?
と、思いながら「with love?」とオヤジ風のジョークが受ける。
*From Russia with love「ロシアより愛をこめて」とは勿論、「『007』シリーズ」映画の第2作だ。1963年の昔話が通じたーー。
「ロシアのどこ?」 サッカリン
サッカリンと聞こえる(汗)。え、と二度三度聞いてはじめて分かった。
Sakhalin サハリン樺太とのこと。そこで、生まれて育ったよし。
で、何をしてるの? English teacher。(小)学校で英語を教えてるとのこと。
話題はそこから、昨年暮れのプーチン大統領の来日に移り、「(英語)教育の目的は世界平和」(鳥飼玖美子教授)というところまで及んだ。
「日本は憲法第九条で戦争を放棄してる」と言ったところで、「え、知らなかった、素晴らしい」。「帰ったら子供たちにそう伝えます」。
そして最後に「日本がいよいよ好きになりました」というところで、横浜駅に到着。あわただしく、下車。
わずか30分。新年に気もちのよい会話だった。

さあ、2017年、世界はどう展開していくか?

 

■ 関連記事 

【第48回】 E Pluribus Unumの勝利 - 浜地道雄の「異目異耳」

【第73回】 Speak-up ⇒ Engineering (創造) - 浜地道雄の「異目異耳」

【第90回】 魅力の「ナショ・ジェオ」

 

2017年01月10日

 

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アフガニスタンの少女(出典:National Geographic)

今は昔のことだが、月刊「National Geographic:通称ナショ・ジェオ」誌を知って感動したのは忘れられないー。場所は中東アラビア。

石油担当商社マンとしてサウディ・アラビアに駐在時、あるプロジェクトの視察に行ったアラビア半島南西、イエーメン国境近くの僻地で、村の有力者に歓待され自宅に呼ばれた。その書斎に「National Geographic」シリーズがズラッと並んでたことが、強く印象に残っている。聞けば当主は米国に留学、その際同誌の魅力に取りつかれ定期購読としるとのことであった。

それ以来、中東の各地に出張の際注意していると、表紙の黄色の枠が特徴のこの月刊誌を、あちこちの事務所あるいは個人宅で見ることがあった。
なるほど、Geoとはギリシャ語で地球。Graphicとは画像。
各界の若手エリートは米・欧に留学したわけだが、インターネットのないあの時代、世界の地理情報源として同誌の写真・画像たっぷりのコンテンツに魅了されたに違いない。
*現在日本語版はじめ、世界の35ヶ国語で発行され、850万人以上が定期購読しているよし。

その発行元NGS: National Geographic Society米国地理学協会は、1888年、「increase and diffuse geographic knowledge(地理情報の増大と普及)」を目的として、ワシントンDCで篤志家のG.ハバードら33人によって設立されたNPO Non-Profit-Organization、即ち、寄付ベースによる協会だ。
海軍大将山本五十六(1884-1943)はハーバード大学で語学研修時、NGSの会員となり愛読者だったよし。
(現在はフォックス社が73%、残り27%が同協会)

そのNGSの二代目の理事長が、創始者の娘婿、電話の発明(1876)で有名なグラハム・ベルAlexander Graham Bell(1847-1922)だ。
べル研究所に名を残し、ベル電話会社は米国の最大の電話会社AT&T;: The American Telephone & Telegraphs Companyへと発展していく。国際的にもビジネス界に大いに影響を与えた。

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National Geographic 2002年4月号

この協会が資金スポンサーとなり、多くの冒険・発見があったわけだが、有名なのはHiram Binghamによるインカ帝国の空中都市Machu Picchuマチュピチュ遺跡。また、英豪華船タイタニックの沈んだ姿を推進4,000メートルの大西洋海底で、発見したのも同協会の支援を得たRobert Ballardだった。
Jane Goodall chimpanzeeのチンパンジー研究も知られている。
そして、画像として有名なのが「現代のモナリザ」とも言われるアフガニスタンの13歳(当時)の少女Sharbat Gula。その鋭い眼光に魅入られる。 

それにしても世の中、技術の進歩には目を見張らされる。
就中、ディジタルdigital技術。digitalの語源はラテン語の「指」digitusで、登場したころ「0 or 1=二進法の繰り返し」と教えられた。それが今や現実になり、日常生活のまわりにも多々あるなかの一つはディジ・カメだ。
あの小さな数ミリのレンズからを通しての鮮明な写真が可能で、さらにはinstagramという写真を世界のどこにあっても共有でいるソフト。これなど、アナログ(Analog)からの大変化だ。

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17年ぶりの再発見

さて、ひるがえってグローバル化が叫ばれる現下の我が国にあって、報道される教育方針は「技術教育に特化し教養科目は少なく」。
これ即ち、文系(人文科学)と理系(自然科学)の乖離ではないか。
ベルらが信じていた「科学や探究の力the power of science, exploration」とは即ち、ディジタル(黒か白か)化ではなく、人間の好奇心に基づく技術力の融合・連携に他ならない。
科学知識の向上は即ち、世界を変化させるためのシナリオ作りで、究極は地球を守ることであり、その目的はinspire, illuminate and teach(ひらめき、啓発、教育)だ。 

なお、NGSの最初の女性理事、エリザ・シドモア(1856-1928)は親日家だったが、その墓は横浜の外人墓地にある。

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2017年1/2月合併号)より転載・加筆。

 

関連記事:

【第202回】 桜に見る「日米友好」 - 浜地道雄の「異目異耳」

【第55回】 使える英語、教養、地域研究 〜 グローバル人材の要件 - 浜地道雄の「異目異耳」

関連サイト:
エリザ・シドモア

【第89回】 ペトロ(ペテロ)岐部(1587〜1639) 〜 稀代のグローバル人

 

2016年12月20日

 

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「和魂洋才」と「異文化理解」講演

何かと話題になる「グローバル化」「グローバル人材(育成)」そして、「言葉・英語力」。

が、そこに「ペラペラ度」以前に重要な「異文化理解」を忘れてはならない。
即ち「(自分とは)異なる歴史、宗教、人種、生き様(ザマ)」の理解である。

その観点から「中東」および「米国」という地理的にはまったく異なる地域での
ビジネス駐在から得た「体感」を披露する二つの機会を得た。

一つは印刷会社最大手、凸版印刷(株)のグループにおける「リベラル・アーツ講座」
〜 国際ビジネスに不可欠な「和魂洋才」と「異文化理解」(12月5日)。

同社は自身のグローバル化という視点だけでなく、多くのお得意先をもち、その外部のお得意先が「グローバル化」を目指している。
その客先との接点にある者として、全社グループ内のイノベーション意識を高めようという原点。社内グループでこの(営業・売り込みといったビジネス手法だけでなく)意識を高め、知識を深めるという姿勢には感心させられた。

(見えてる)棚にはNational Geographic誌がズラリーー。(関係者としては嬉しく)

【第90回】 魅力の「ナショ・ジェオ」 - 浜地道雄の「異目異耳」



そして、もう一つは、大分県国東(クニサキ)市国見の名刹、竹田山大光寺における「文化講座」。
若者が県外に出ていくという趨勢にあって、「心の過疎とはなるまい」という趣旨の
文化講演会はすでに121回を数えるという。
参照:国東市国見町

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竹田山大光寺住職、武多成道師と

121回文化講演12月18日、日曜日:(屋根下に苦楽のありて十三夜:武多成道 住職)
テーマ:目からうろこの世界俯瞰 〜
    米大統領選から中東紛争まで
・もつれた世界治政
・異文化体験(テロ・紛争に10回ほど遭遇)をもとに解説
・日本の果たすべき役割は?

話を「米大統領選挙のシステム」から始めた。
日本ではあまり報道されないが、正式の選挙は(11月8日を受けての)12月19日のCollege。
その開票は2017年の1月9日。その結果を受けて1月20日の就任となる。
参照:米大統領選に異文化Showを見る

インターネット時代にはそぐわない古いシステムは建国時の各州の事情(南北攻防など)が
反映されている。 そしてそこには「キリスト教」「ユダヤ教」「イスラム教」という根を一に
する一神教という(多くの)日本人には理解が及ばない世界がある。
参照:「番外編」イスラムを知らずして世界は語れない

お寺の本堂でこれらの「(他)宗教の話」を住職は快く許してくださり、
100名近い聴衆には好評を得たようだ(アンケート結果)。

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国東市、岐部村の「ペトロ岐部記念公園」にて

さて、この地、国東半島の岐部町は、稀代のグローバル人、ペトロ(ペテロ)岐部(1587〜1639年)の出身地である。
聖イグナチオ教会上智大学、東京四谷)の「岐部ホール」にその名を残す。
参照:ペトロ=カスイ岐部の軌跡

住職の案内でその地(記念公園)に立ち、遠き昔に信仰を貫き、文字通りグローバル人として旅し、生きた福音者を偲んだ。
隣接の「国見ふるさと展示館」には岐部のローマにおける関連資料などが展示されている。

改めて、その岐部がインド・ゴアからペルシャにわたり、ローマへの途次、
900キロ、陸路(徒歩?)でエルサレムを目指したという信じられない
人間物語に感動を覚えた。

石油担当商社マンとして最初に駐在したのがイラン(ペルシャ)。新婚旅行はペルセポリスイスファハン、シラッズだったという筆者(浜地)にはことのほか思いが強い。

ペルセポリスから飛鳥へ」(NHK出版)で松本清朝は「ペルシャゾロアスティア教の
拝火儀式」が飛鳥(奈良)に伝わったとまさに時空を超えたロマンを記している。

 

関連拙稿:
Parsiの商人
国際教育研究会:月例研究会で講演。

関連サイト
ペルセポリスから飛鳥へ(松本清朝)

【第88回】 米大統領選に異文化Showを見る

 

2016年11月08日

 

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英語) 浜地道雄・浜地絵里 (著)

ヒラリー・クリントン候補の健康問題はともかく、ドナルド・トランプ候補の暴言の数々は従来のアメリカの規範、PC(Political Correctness)からすると考えられない現象だ。そのTV討論会などを見ているとまるでParty(本来「政党」だが米語でどんちゃん騒ぎ)、否、Show見世物だ。醜い舌戦が終わると握手。ビジネス交渉の見本とは言えないが、アメリカ人気質を見ることが出来る。

とにかくわかりにくい選挙制度だが、以下に見るごとくまさに(歴史に支えられた)「異文化」と言える。

例えば、この11月8日(火曜日)の本選挙結果で、次期大統領が決まる。だがこれは正式ではない。確かにこの日には選挙人Elector団が選ばれ、これを(United States Electoral )Collegeという。「大学」の意味ではなく、語源Colleague仲間だ。ところが彼らが「投票」するのは12月半ば。

それで決まりかと思うとさにあらず、このCollege選の結果は翌2017年1月6日、連邦議会で開票されるまで待たねばならない。そこで選ばれた者が晴れて次期大統領として、1月20日正午、最高裁判所長官の立会いのもとに、「So help me God」と宣誓Oathしてはじめて正式になる。

選挙から誕生まで3ヶ月近くかかるという所以がここにある。交通・通信が発達していなかった時代、全国の票を短期間で集計することができなかったことの名残だ。
そもそも、米大統領選挙は4年に一度、オリンピックの開催されるうるう年Leapの11月の「最初の月曜日の翌日、火曜日」、今年2016年は11月8日に行われる。なぜこんな持って回った言い方になるかというと、11月1日が火曜日の場合10月の決算で忙しいからだという説がある。


では、なぜ日本のように日曜日ではなく、火曜日なのか?
日曜日は安息日で、仕事(公務)をする日ではない。広い州では月曜日に馬車で出発して、火曜日に投票所に到着するという歴史がある。

キリノ大統領の記念碑
Super Tuesdayについて

選挙戦の始まり1月から6月、各州でのPrimary(なぜか「予備」と訳される)選挙、または党員集会( コーカスCaucus )で選挙人を選ぶ。コーカスとは元々アメリカインディアンの「相談相手」を意味する言葉 kawlkawlasu に由来する。

そして3月のはじめがSuper Tuesdayだ。Superとは「大きい」だから、本選挙(11月)をスーパーというのかと思うが違う。

カリフォルニアなど選挙人の多い州で予備選挙が行われ、そこで最多数票を得た党がすべてを獲得するWiner-take-all方式で、大勢を決する重要選挙だからSuperと呼ばれる。そして、夏の各党大会で「候補」が決まる。

米国では不思議なことに副大統領の存在感があまりない。が、大統領任期4年間の間にもしものことがあれば、直ちに副大統領が昇格する。 1963年11月22日、時の大統領JFケネディーがダラスで凶弾に倒れた時、僅か数時間後、ジャクリーヌ未亡人が血痕のついた洋服のまま、専用機の中でジョンソン副大統領の昇格就任式に立ち会った図は脳裏に焼き付いている。

夏の党大会で、それぞれ副大統領候補(Running Mate)をも決めるが、この正・副の組合せをTicketという。民主党ヴァージニア州選出のTim Kaine上院議員を、共和党インディアナ州のMike Pence知事を指名した。両者ともTV討論会では紳士的で、こちらのほうがリーダーに相応しいようにもみえるほどだ。

さあ、このTicket(切符)は新しい「E Pluribus Unum」(ラテン語で「多くから一つに」という米国の標語)でどういうShow(展開)を見せてくれるか?

 

 

一般社団法人日本在外企業協会「月刊グロ―バル経営」(2016年11月号)より転載・加筆。

 

関連拙稿:

【第48回】 E Pluribus Unumの勝利 - 浜地道雄の「異目異耳」

【第87回】 the Americaがuniteする道 〜 愛と敬意 - 浜地道雄の「異目異耳」

【第24回】 色々なParty - 浜地道雄の「異目異耳」

【第3回】From the New World - 浜地道雄の「異目異耳」